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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第1章 空からの知らせ




「また壊したのね」


孤児院の院長であるグリス・ブリンドが、廊下に散らばった照明球の破片を杖で指し示した。
淡い青い光を放っていた球体は、今や床一面に広がる鋭い破片となっていた。


チユは、院長室の床を見つめたまま黙っていた。


昨夜の出来事が、まるで悪夢のように蘇る。
上級生たちに追いかけられ、暗い廊下を必死で走った時のこと。
恐怖と焦りで胸が締め付けられる中、突然、廊下の照明球が次々と爆ぜるように割れていったのだ。


「説明してごらんなさい!」

ブリンド院長は机を強く叩いた。痩せこけた顔には意地の悪い笑みが浮かんでいる。

「割ったのはあなたでしょう?」


「違う…」チユは小さな声で答えた。「私、触ってもいないのに…」


「もういいわ、言い訳は」


院長の杖から放たれた冷たい光が、チユの顔を不気味に照らし出す。
その光に照らされた瞳は、左が金色、右が真紅という異なる色をしている。長い金髪が、光を浴びてキラキラと輝いていた。


彼女の暮らす、魔法省認定孤児院『月光の家』は、魔法界でも評判の悪い施設として知られていた。

古びた石造りの建物は、どこか無機質で陰鬱な雰囲気を漂わせている。ここには戦争や事故で親を失った子供たち、魔力を持てずに親から見放されたスクイブたちが暮らしていた。


しかし、チユ・クローバーは誰とも違っていた。


両親の名前も、生まれた場所も、全てが謎に包まれている。
今も、自分の出生について知っているのは、誰が付けたのかも分からないその名前だけだった。



「あなたみたいな厄介者、うちでは面倒見切れないわ」
ブリンド院長は冷ややかな目でチユを見下ろした。


「明日、別の施設に移すことにしたの」


チユは静かに頷いた。この3ヶ月で4つ目の転院、どの施設でも同じ結末を迎えていた。
彼女の魔力は普通の子供たちとは違っていた。制御しようとすればするほど、暴走してしまうのだ。


「荷物をまとめなさい」


ブリンド院長は杖を振り、チユの前に古びた鞄を投げ出した。


「明日の朝一番で、次の施設の者が迎えに来るわ」





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