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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第17章 2つの顔を持つ男



「なぜ彼が次の試合で審判を買って出たと思う? 私がまた何か仕掛けないように見張っていたのさ。ダンブルドアが見ている前では、私もさすがに動けなかった。セブルスは自ら進んで悪者を演じた……まったく、滑稽な話だよ。どのみち、今夜、私がお前を殺すというのに」

部屋の空気が、さらに重くなったような気がした。
それでも彼女は、ハリーの横に立ち、絞るように言葉を紡いだ。


「どうしてそんな目をしているの……先生?」

それは問いというよりも、独り言に近かった。


クィレルはゆっくりと、そしてまるで何かを見下ろすように言った。

「もう“先生”なんて呼ぶ必要はないよ、チユ・クローバー。私は弱さを捨てた。そして、その先に本当の力があった。それだけのことだ」


チユは、少しだけ唇を噛んだ。


「力……?それが、人をだまして、呪って、殺すこと?」

問いかける声には、怒りよりも、戸惑いが混ざっていた。
どうして、ここまで変わってしまえるのか。
どうして、こんなふうに誰かを傷つけられるのか――理解できなかった。


クィレルの口元に、薄い笑みが浮かぶ。


「理解できなくて当然だ。君たちはまだ“知らない”からだよ。世界の本当の姿を。そして、我が主の偉大さを――」

「“主”って……ヴォルデモートのこと……?」


横に立つハリーの声はかすかに震えていたが、確かだった。

クィレルはその名を聞いて、まぶたをぴくりと動かした。

「名を口にするな……だが、ああ、そうだ。彼こそが、私を導いた方。我が主の命によって、私は『石』を手に入れる……そのために、今日ここへ来たのだ」


ハリーが一歩前に出た。
「そんなこと、させない。絶対に」


その背中を見て、チユは小さく息を吸い込んだ。
自分の足が震えているのを自覚しながらも、彼の隣に立ち直す。

怖い。
けれど、目を逸らしたくない。誰かが、隣にいてくれるなら。


クィレルの顔がわずかに歪む。まるで、彼の中で何かが別のものに反応したかのように。


「……2人とも……愚かな子どもだ」

そして、彼はゆっくりとターバンに手をかけた。

「だが――見せてやろう。我が主の姿を」

その指が布をほどいていくたび、チユの心臓は凍りついていくようだった。
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