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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第16章 仕掛けられた罠


そしてついに、ハーマイオニーがぱちんと手を打った。

「わかったわ。1番小さな瓶が、黒い炎を通り抜けて『石』のほうへ行かせてくれる薬よ」

チユは、ハリーと一緒にその小さな瓶を見つめた。澄んだ紫色の液体が、ガラスの中でゆらゆらと揺れている。

「ほんの少ししか入ってないんだね……1人分だけだ」


チユがそっと呟いた声に、ハリーはうなずいた。2人は視線を交わし、言葉にならない何かがその間に流れる。


「紫の炎をくぐって戻れる薬はどれ?」
ハーマイオニーが、1番右端にある丸い瓶を指さす。

「君がそれを飲んでくれ」


そう言ったハリーの顔は、どこか決意に満ちていた。


「だまって聞いてほしい、チユはこの場に残って助けを待つんだ。ハーマイオニーはロンのところに戻って合流して。それから、あの鍵の部屋へ行って、箒を使うんだ。そうすればフラッフィーの部屋も飛び越えて、ふくろう小屋まで行ける。ヘドウィグを使って、ダンブルドアに知らせるんだ。僕がここでスネイプを止められるかもしれないけど……多分、長くはもたない」


チユは、じっとハリーの横顔を見つめていた。震える手をぎゅっと握りしめる。
彼の言葉の裏にある「覚悟」が、怖いほどはっきり伝わってきた。

「でも……」ハーマイオニーが不安そうに声を上げる。「もし“例のあの人”がスネイプと一緒にいたら……どうするの?」


ハリーはゆっくりと額に手を当て、自分の傷跡を指でなぞる。


「1度は幸運だった。多分……2度目も、そうかもしれない」

ハーマイオニーは感情を抑えきれずに、突然ハリーに駆け寄り、両手で彼を強く抱きしめた。


「ハーマイオニー!」

「私なんて、ただの本好きの生徒にすぎないわ。頭が良くたって、意味なんてないの。大切なのは……勇気とか、そういうものなのよ」

「僕なんか、君に到底かなわないよ」


ハリーが照れたように言うと、ハーマイオニーは一歩下がって小さく微笑んだ。

そのやり取りを少し離れた場所から見ていたチユは、そっと唇を噛んだ。自分の胸の奥が、きゅっと縮まるような感覚がした。
──こんな大切なときに、なにもできない。
呪文が使えなければ、自分はただの足でまといにすぎないと知っていた。それでも、ここまで来たのだ。
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