第16章 仕掛けられた罠
「すぐ戻る。それにホグワーツにはマダム・ポンフリーがいるんだ」
ハリーの声には、どこか不安がにじんでいたが、それでも前へ進もうという意志が感じられた。
チユは小さく頷いた。でも、手はまだ強く握りしめられていた。ロンの勇気が、痛いほど心に残っていた。
「次はなんだと思う?」
ハリーがぼそっと呟いた。
「スプラウト先生の罠はもう越えたわ。あの悪魔の罠…」
ハーマイオニーが答える。「それから、鍵に魔法をかけたのはフリットウィック先生。チェスの駒を変身させて命を吹き込んだのは、マクゴナガル先生よね」
「じゃあ、残ってるのは…」
ハリーが低く続けた。「クィレルの呪文と、スネイプの……」
「スネイプ先生の試練……」
チユは小さく、でもはっきりと口にした。名前を言うだけで、胸の奥に冷たいものが落ちてくるようだった。
一行は、やがて次の扉の前にたどり着いた。扉の前で足を止め、互いに顔を見合わせる。
「いいかい?」とハリーがささやいた。
チユは、強く頷いた。
「開けてちょうだい」
ハーマイオニーが言った。
ハリーは深く息を吸って、両手で扉を押し開けた。
――その先に、待ち受けるものは、まだ誰にもわからなかった。
扉を開けると、むかつくような強烈な臭いが、鼻をついてきた。ハリーたちは思わずローブを引き上げ、顔を覆った。
「うっ……なに、この臭い……!」
チユは眉をしかめて、目に涙を浮かべながら口元を押さえる。刺激臭が粘膜を焼くようで、喉まで痛んだ。
3人は目を細めながら、前方の部屋の中をのぞき込んだ。
そこには、以前見たものよりも遥かに大きなトロールが横たわっていた。
巨体は壁にかかるほどで、頭にはひどく腫れ上がったコブがあり、そこから血が流れ出ている。意識はなく、巨人のような体は動かず、床に崩れ落ちていた。
「これと戦わなくて済んで、本当によかった……」
ハリーが、小山のような足をそっとまたぎながら、呟いた。
チユは唇を噛みながら、そのトロールを見つめていた。
彼女はその場の空気に圧倒されながら、無意識に杖のない自分の手を見つめる。自分に何ができるのか、不安が再び胸を締めつけた。
「さあ、行こう。息が詰まりそうだ」
ハリーが促し、3人は次の扉へと向かった。扉の向こうに何があるのか――それを思うと、誰もまっすぐには前を見られなかった。
