• テキストサイズ

ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第16章 仕掛けられた罠



「でも……」
ハリーはためらいの声を漏らす。

「スネイプを止めたいんだろ? 違うのか?」

「ロン……」

「急がないと、スネイプがもう『石』を手に入れてるかもしれないんだぞ!」

その言葉に、チユはびくりと目を見開いた。

でも、心はまだ震えていた。目の前で「仲間」が倒れる。その現実を受け止めきれなかった。

「……やめて……ロン、行かないで……」
チユは、無意識に言葉をこぼしていた。

だが、ロンは振り返らず、静かに言った。

「いいか? これが最後の手なんだ。勝ったら、ぐずぐずしてる暇なんてないんだ」

彼は一歩、駒のように前へ進んだ。

その瞬間、白のクイーンが動き、鋭くロンの頭を石の腕で殴りつけた。
ロンは音もなく崩れ落ち、その場に倒れた。

「ロン!」
ハーマイオニーが叫ぶ。

けれど次の瞬間には彼女も、気丈に立ち上がり、持ち場を離れなかった。
白のクイーンは無表情のまま、ロンの体を片隅に引きずっていった。

チユはその光景を、ただ、見つめるしかなかった。
恐怖、無力感、怒り……混ざり合った感情が胸を締め付けた。

「ロン……」
小さく、チユは呟いた。
それは祈りのようで、願いのようで、でも何より――悔しさに満ちていた。


ハリーは一瞬だけためらいながらも、覚悟を決めて3つ左に進んだ。

その瞬間、白のキングがゆっくりと王冠を取り、無言でそれをハリーの足元に投げ出した――勝利だった。

チェス盤の駒たちは、まるで礼儀を尽くすかのように左右に分かれ、静かに前方の扉への道をあけた。そして一礼するように頭を垂れる。


「……勝ったんだ」


チユは、小さく呟いた。けれどその声には安堵よりも、まだ消えない不安が混ざっていた。ロンの姿が、チェス盤の片隅に倒れたまま、動かない。

ハリーとハーマイオニーは、もう一度だけロンを振り返った。

「ロン……必ず戻るからね」

ハーマイオニーが強く言い、目を潤ませながらも前を向いた。ハリーも小さくうなずいて、2人で扉へと突進した。

チユも一歩、扉に向かって足を踏み出した……けれど、すぐに振り返ってしまう。

「…本当に、置いていくの?」

声は震えていた。ロンがどんな思いで駒の前に立ったのか、今になって胸に迫ってくる。

「もし、ロンが…」

「大丈夫だよ」

ハリーが、まるで自分自身に言い聞かせるように答えた。
/ 214ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp