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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第16章 仕掛けられた罠



「よし、見て!箒がある!あの中から扉を開ける鍵を見つけるんだ!」とハリーが叫ぶ。

「でも、何100もいるぞ!」ロンが言いながら錠を覗き込んだ。「取っ手と同じ銀製の、大きめの鍵だ!きっとそれだ!」


ハリー、ロン、ハーマイオニーはそれぞれ箒をつかみ、勢いよく地面を蹴った。次の瞬間、3人の体はふわりと宙に浮かび、鍵の群れの中へと吸い込まれていった。


チユだけが、ぽつんとその場に取り残された。


彼女は箒にそっと手を伸ばしかけたが、途中でぴたりと止まる。喉の奥がぎゅっと詰まり、胸の奥から不安が込み上げてくる。

背中にかすかに感じる、あの“羽”の感覚。
空を飛ぶことはできる。

でも、それは誰にも知られてはいけない、彼女にとって最大の秘密だ。


(それに、箒に乗って、あのときみたいに落ちたら…)


宙を舞っていたはずの自分の体が重力に引かれて落ちていった記憶。そして、倒れた自分を抱き上げてくれた、ジョージのぬくもり。
この場には、そんな彼はいない。


そのとき――


「チユ!」
空から、ロンの声が降ってきた。

「無理して乗るなよ!地面から見てるだけでいいからさ!……な? ほら、君、飛行のセンスは……その、うーん……ぶっちゃけゼロだろ?」


茶化すような軽い言い方。でも、その声の奥には気まずさと、それ以上に真っ直ぐな気遣いが込められていた。

チユは小さく笑い、こくりと頷いた。そして箒から手を引き、地上に留まりながら、空を見上げて必死に銀色の鍵を目で追った。


上空では、魔法のかかった無数の鍵が鋭く旋回し、誰かの手が触れそうになるたびにすばやく方向を変えていた。捕まえるのは至難の業だ。

だが――ハリーは違った。
鋭い視線で鍵の群れを見渡し、すぐに気づいた。ひとつだけ、動きの鈍い鍵が混ざっている。

銀色の金属。片方の羽根が少し折れ曲がり、まるで一度無理やり引き抜かれた痕のようだった。

「あれだ!」
ハリーが力強く叫んだ。
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