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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【1】

第16章 仕掛けられた罠



「ハーマイオニーが『薬草学』をちゃんと勉強しててくれて、良かったよ」

ハリーは額の汗をぬぐいながら、壁際で立ち尽くすハーマイオニーの方へ向かって言った。

「本当にな…こんな状況でハリーが冷静でよかった」とロンも言い添える。


チユは、ようやく張り詰めていた気持ちがほどけたのか、小さくくすりと笑った。

「それにしても……『薪がないわ』って……ハーマイオニーったら」

その笑みはほんの一瞬だったが、ついさっきまで半べそをかいていた少女とは思えないほど、柔らかかった。


「君もこんなことで泣くなよ……チユ。いや、怖かったのはわかるけどさ。でも、もう大丈夫だよ」

ロンは少しバツが悪そうに鼻をこすりながら、ぶっきらぼうに言った。
その言葉に、チユはきょとんとロンを見つめ、うなずいた。

「…うん、ありがと」


空気がようやく静けさを取り戻したとき、ハリーが前方を指さした。

「こっちだ。道が続いてる」


ハリーの声に、4人はしんなりと崩れた植物の残骸を踏み越え、石造りの細い通路へと足を踏み入れた。空気は冷たく湿っていて、先ほどの出来事の余韻が、体の奥にまだじんわりと残っていた。

けれど、歩を進めるその足取りには、もう迷いはなかった。互いに見えない意志を交わすように、皆が前を向いていた。

壁を伝う水滴の音だけが、静かな空間に響いている。


「何か聞こえないか?」ロンが小さな声で言った。

ハリーが立ち止まり、耳を澄ます。確かに、何かがこすれ合うような、羽ばたきにも似た音が前方からかすかに聞こえてくる。そして、かすかな鈴の音のようなチリンチリンという音も。

「ゴーストかな?」とロン。

「違う気がする。羽の音に近い。でも、ちょっと変だ」

「見て、なにか動いてる…」とチユが囁く。

通路の出口に差しかかると、4人は思わず立ち止まった。
そこには、まるで星空のようにキラキラと輝く空間が広がっていた。高いアーチ型の天井、部屋の中を乱舞する無数の小さな鳥の群れ。その羽は宝石のように光を反射し、まばゆい輝きを放っている。

部屋の奥には、頑丈そうな木の扉がぽつんと構えている。


「わーー綺麗、1匹だけでも持って帰れないかなぁ」
チユが上を見上げ、無邪気に言った。

「手紙も運ばないし、部屋に置くにするにはちょっと騒がしすぎると思うけど」ロンがぴしゃりと返す。
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