第16章 仕掛けられた罠
「動かないで!」ハーマイオニーが鋭く叫んだ。
「私、知ってる……これ、『悪魔の罠』よ!」
「ああ。なんて名前か知ってるなんて、大いに助かるよ」ロンが皮肉っぽく言いながら、のけぞる。
「黙ってて!どうやって対処するか思い出してるの!」ハーマイオニーが必死に言い返す。
チユは、ますます締めつけられていく腕に涙をこぼしながら、か細く訴えた。
「こわいよ…ハーマイオニー……」
「早くして……!もう、息が……!」ハリーが胸に巻きつくツルと格闘しながら、苦しげにうめいた。
「『悪魔の罠』、『悪魔の罠』っと……スプラウト先生はなんて言ってたかしら? 暗闇と湿気を好む植物で……!」
ハーマイオニーは必死に記憶を探っていたが、焦りで言葉が詰まる。
「だったら、火をつけて!」ハリーが息も絶え絶えに叫ぶ。
「そうよ! 火……でも、薪がないわ!」
ハーマイオニーが両手を握りしめて焦燥の声を上げると「君はそれでも魔女か!」とロンが声を張り上げた。
「インセンディオだよ、インセンディオ!」チユがか細い声を振り絞るように叫んだ。
その一言で、ハーマイオニーは目を見開いた。「あっ、そうだった!」
すぐさま杖を取り出し、勢いよく振りながら叫ぶ。「インセンディオ!」
杖の先から炎が噴き出し、植物を照らした。湿った空間に一瞬にして熱が生まれ、光が踊る。
チユたちを締めつけていたツルが次々にほどけてゆき、やがて完全に力を失い、床にしおれて崩れ落ちた。
「……た、助かった……」
チユは肩で息をしながら、ゆっくりと杖を握りしめた。その手はまだ少し震えていたが、目ににじんだ涙は、もう乾きかけていた。