第16章 仕掛けられた罠
ロンが唇をぎゅっと引き結び、慎重にフラッフィーの巨大な足をまたいだ。息を殺して身をかがめ、仕掛け扉の引き手をそっと引く。カチリという金属音とともに、扉が跳ね上がった。
「何が見える?」ハーマイオニーがこわごわ尋ねる。
ロンは目を凝らしながら言った。「何にも……真っ暗だ。下りていく階段もない。ただ、落ちるしかないみたいだ」
チユが後ろから覗き込み、杖を取り出して静かに呟いた。
「ルーモス」
杖の先に柔らかな光が灯る。けれど、闇は深く、光は底まで届かなかった。
「だめだ、かなり深いみたい……何があるのか、全然見えない」
「ハーマイオニー、君に笛を渡すよ。犬を眠らせ続けて」
ハリーがそう言って横笛を手渡す。ほんの一瞬、音が途切れただけで、フラッフィーはうなり声を上げてぴくりと動いた。ハーマイオニーが慌てて笛を吹き始めると、すぐに犬はまた深い眠りへと沈んだ。
ハリーは穴の中に体を滑り込ませ、最後に扉の縁に指先でぶら下がりながら、見上げて言った。
「もし僕の身に何かあったら、ついてきちゃだめだ。すぐふくろう小屋に行って、ダンブルドアにヘドウィグを飛ばしてくれ。わかった?」
チユは小さくうなずきながら答えた。
「……うん、わかった」
けれど――心の中では、そんなことをする気はさらさらなかった。
(何があっても後を追う。それ以外、ありえない)
ハリーは小さく笑って、「じゃ、あとで会おう。できればね」と言い残し、指を放した。
冷たい空気を裂いて、ハリーの姿が闇に消えていく。
一瞬、沈黙――その空白の数秒が、永遠のように感じられた。
チユの胸がぎゅっと締めつけられた、その時
「飛び降りても大丈夫だよ!」
下から響いたハリーの声に、緊張で張りつめていた肩が、少しだけ落ちる。