第16章 仕掛けられた罠
いつの間にか、じわじわと数日が過ぎていた。
試験が近づくにつれ、普段は教科書を開くことすらないチユでさえ、周囲の緊張感に影響されるほどだった。
森の事件以来、チユは夜になると悪夢にうなされ、不眠症が再発してしまった。
白い肌に浮かぶクマは、彼女の人形のような顔をさらに不気味にしている。
ハリーも同じだった。額の傷が疼き、眠れない日々が続いていた。
そんな2人を見て、ネビルは「試験恐怖症の重症なんだ……」と本気で心配していた。
うだるような暑さの中、試験の大教室はことさら蒸し暑かった。
試験用に配られたのは、カンニング防止の魔法がかけられた特別な羽根ペン。羽根の先を見つめるだけで、じっとりと汗がにじむ。
実技試験もあった。
フリットウィック先生の試験では、パイナップルを机の端から端までタップダンスさせなければならない。
上手くいった者は笑顔を浮かべたが、思うように動かないパイナップルを見つめ、涙目になっている生徒もいた。
マクゴナガル先生の試験では、ネズミを『かぎたばこ入れ』に変えるというもの。
美しい箱になれば高得点、ひげが生えていたら減点。
ネビルのネズミは、なんとも微妙な形の箱になり、隅にちょこんと残ったしっぽを見てマクゴナガル先生が困ったように唸った。
そしてスネイプの試験——。
『忘れ薬』の作り方を思い出そうと必死になっている生徒たちのすぐ後ろに、音もなく回り込み、まじまじと監視するスネイプの存在が、試験の難易度をさらに引き上げた。
(じーっと見てるなら、ヒントの1つでもくれたらいいのに)
そんなことを考えながら、チユは手元の鍋をかき混ぜる。
目の前の薬は、本来なるべく色とは程遠く、なんとも言えない色をしていた——。
最後の試験は『魔法史』だった。
1時間の試験で、チユが回答を記入できたのは、たったの1問。
それも、合っている自信はまるでない。
「思ってたよりずーっとやさしかったわ!」
試験を終えると、陽の射す校庭に、ワッとくり出した生徒の離れに加わって、ハーマイオニーが言った。
チユ達もその流れに乗り、湖へと向かう。
陽射しは明るく、湖の水面がきらきらと光っている。
ウィーズリーの双子とリー・ジョーダンは、暖かな浅瀬で日向ぼっこをしている大イカの足をつつきながら、くすくすと笑っていた。
