第15章 森への足音
その言葉に、チユは息をのんだ。先ほどまで「傷が癒えたかもしれない」などと楽観的な考えを抱いていた自分が恥ずかしくなる。ハグリッドの顔が険しくなった。
「そいつはどっちへ行った?」
「森の奥のほうへ……でも、そいつ、こっちに気づいたんだ。ハーマイオニーが叫んで、僕も動けなくなって……その時——」
「ケンタウルスが助けてくれたのよ!」ハーマイオニーが遮るように言った。
「ケンタウルス?」
チユが目を見開いた次の瞬間、茂みの向こうから、まるで人間と馬が一体になったような姿が現れた。
「まさにその通りだ」
低く響く声とともに、銀色のたてがみを持つケンタウルスが姿を現した。その後ろには、さらに2頭のケンタウルスが立っている。
「フィレンツェ!」ハグリッド彼の名を呼ぶ。
「君たち、人間の子供がこんな場所に来るべきではない」
フィレンツェと呼ばれるケンタウルスはハリーの方へと歩み寄ると、じっと彼を見つめた。その目はどこか遠くを見つめているようだった。
「何者かがユニコーンの血をすすっていたのを見た」
ハリーがそう言うと、フィレンツェの表情が一瞬だけ険しくなった。しかし、すぐに彼は落ち着いた声で言った。
「その者は、おそらく——」
「言うな!」
突然、後ろにいたケンタウロスの一頭、ベインが声を上げた。
「星々はまだすべてを語ってはいない。お前は余計なことを喋りすぎる、フィレンツェ」
「だが、この少年には知る権利がある」
フィレンツェは静かに言った。
チユは固唾をのんでやりとりを見守っていた。話が見えない部分もあったが、フィレンツェが何か重大なことを知っているのは間違いない。
「ユニコーンの血を飲むのは、非常に邪悪な行為だ」
フィレンツェはハリーの方をじっと見つめたまま、ゆっくりと語り始めた。
「ユニコーンの血は、死にかけた者に一時的な命を与える……しかし、それを飲んだ者は、呪われた命を生きることになる」
その言葉に、ハリーは唾を飲み込んだ。
「つまり……」
「禁じられた森にいるのは、死を免れようとしている者……かつて強大な力を持っていた者……」