第2章 ダイアゴン横丁
家へ帰ると、染み付いた木の香りと埃っぽい空気が2人を出迎えた。
リーマスは上着を脱ぐ間も惜しむように台所へ向かい、馴れた手つきで紅茶を淹れ、「さっき買ってきたんだ」と言ってケーキを出してくれた。
チユが優しく温もる紅茶に口をつけ、ケーキをつついていると、リーマスは綺麗な紙にラッピングされた包みを渡してきた。
淡い青の包装紙に白いリボンが添えられ、明らかに店で丁寧に包装してもらったものだった。
「これ、君に似合うと思って。正装は1着は必要だろうから…気に入らなかったらすまない」
彼の声には珍しく緊張が混じっていた。
包みを解くと、そこには上品な黒のワンピースが現れた。
襟元には控えめな刺繍が施され、胸元の赤いブローチが瞳のように輝いていた。裾のレースは繊細な模様を描き、触れるのが憚られるほどの優美さだった。
チユの胸が熱くなった。思わず感極まり、チユはリーマスに抱きついた。
「ありがとう、嬉しい!」
その言葉を聞いて、リーマスの肩から緊張が解けていくのが分かった。
部屋を見渡せば、所々剥げかかった壁紙や、何度も繕われた家具が目に入る。彼が決して裕福でないことは明らかだった。
だからこそ、この贈り物の重みが胸に染みた。
「良かった、君の好みに合わなかったらどうしようかと思って不安だったんだ」
自信がないのは先程、洋服店で地味で質素なものばかり選んでいたからだろう。
しかし、リーマスがプレゼントしてくれたワンピースは、確かに派手目ではあったが、チユの好みにぴったりだった。
「着てみてもいい?」チユが期待に目を輝かせると、リーマスは優しく頷いた。
寝室で着替えたチユは、少し恥ずかしそうに部屋に戻ってきた。
「どうかな?」
その姿を見たリーマスの顔が、まるで太陽のように輝いた。
「思った通りよく似合っているよ!お姫様みたいだ」
その言葉に、チユは得意気にくるりと回った。黒いスカートが優雅に舞い、レースが光を散りばめる。
「本当にありがとう、リーマス!」
夕暮れの柔らかな光が窓から差し込み、2人の幸せな瞬間を優しく包み込んでいった。