第15章 森への足音
行く手に、チユはハグリッドの小屋の窓の明かりを見た。遠くから大声が聞こえた。
「フィルチか?急いでくれ。俺はもう出発したい」
チユは一瞬、ホッとした。
ハグリッドと一緒なら、そこまで悪い罰じゃないかもしれない。動物の世話とかだったら、むしろ楽しいかも――。
そんな考えが顔に出ていたのだろう。
「……あの木側の坊と一緒に楽しもうと思っているんだろうねぇ?もう一度よく考えたほうがいい……これから行くのは、森の中だ。もし全員無傷で戻ってきたら、私の見込み違いだがね」
とたんにネビルは低いうめき声を上げ、マルフォイもその場でぴたっと動かなくなった。
「森だって?そんな所に夜行けないよ……それこそいろんなのがいるんだろう…狼男だとか、そう聞いてるけど」マルフォイの声はいつもの冷静さを失っていた。
“狼男”
チユは足を一瞬止めて、無意識に月を見上げる。
リーマスと同じ狼男――。
「意外だね、マルフォイって、怖がりなんだ?」
青ざめているマルフォイに向かってチユが言うと、彼はギロリと睨んできた。
「うるさい!お前だって怖いくせに!」
チユは肩をすくめる。
森の中にある墓地で暮らしていたチユにとっては、暗い森など慣れっこだった。
「そんなに怖いなら、手を繋いであげようか?」
「バカバカしい」マルフォイは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
ハグリッドがファングをすぐ後ろに従えて暗闇の中から現れた。大きな石弓を持ち、矢筒を背負っている。
「ここからは俺が引き受けよう」
「また夜明けに戻ってくるよ。こいつらの体の残ってる部分だけ引き取りにくるさ」
フィルチは嫌味たっぷりにそう言うと、城に帰っていった。
「僕は森には行かない」マルフォイが言った。
「ホグワーツに残りたいなら行かねばならん」
「でも、森に行くのは召使いがすることだよ。生徒にさせることじゃない。同じ文章を何回も書き取りするとか、そういう罰だと思っていた。もし僕がこんなことをするって父上が知ったら、きっとーー」
ハグリッドが唸るように言った。
「書き取りだって?へっ!それがなんの役に立つ?役に立つことをしろ、さもなきゃさっさと城に戻って荷物をまとめろ!さあ行け!」
マルフォイは動かなかった。ハグリッドをにらみつけていたが、やがて視線を落とした。