第14章 ドラゴンの子、ノーバート
「ところでハグリッド――あれは何?」ハリーが言った。
彼の指す"あれ"とは暖炉の炎の真ん中、やかんの下に置かれた大きな黒い卵の事だ。強烈な存在感を放っている。
「えーと、あれは......その…」ハグリッドは焦った様子で視線を逸らし、言葉を濇らせた。
「これ、ドラゴンの卵だろう?どこで手に入れたの?すごく高かったろう」ロンが火のそばにかがみ込んで卵をよく見た。
「貰ったんだ。昨日の晩、村でちょっと酒を飲んで、知らないやつとトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは介払いして喜んどったな」
「それって本当に"ちょっと"だった?」チユが疑わしげにハグリッドを見た。
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」ハーマイオニーが尋ねた。
「それで、ちいと読んどるんだがな」ハグリッドは枕の下から大きな本を取り出した。
「図書館で借りたんだ『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』ちいと古いが、なんでも書いてある。この卵はノルウェー・リッジバックという種類らしい。こいつが珍しいやつでな」ハグリッドはその本を広げて、得意げに説明した。
「ドラゴンって火を吹くんじゃなかったっけ…?」とチユが心配そうに言った。
「ドラゴンの飼育は違法なのよ!それに、この家は木の家なのよ!」ハーマイオニーがすぐに反応した。
ハグリッドはそんな警告にも耳を貸さず、楽しげに鼻歌を口ずさみながら薪をくべている。
彼はあまりにも無邪気で、危険性をまったく考えていないようだ。それでも、今は何を言ってもきっと聞く耳を持たない。
結局、もうひとつ心配が増えてしまった。
もしハグリッドが法を犯して小屋にドラゴンを隠していることがばれたら、どうなってしまうんだろう……。チユはそのことが頭から離れず、不安が募った。
「あーあ、平穏な生活って、どんなものかなぁ」ロンが呟いた。
確かに、次々と問題が起こり、落ち着く暇などほとんどなかった。
けれど、そんな慌ただしい日々のおかげで、過去の辛い記憶に囚われることなく、前に進むことができているのも事実だった。