第11章 ハリーの空中戦
チユはスネイプの姿を見つけると、即座に飛びついた。
杖を抜かなかったのは、懸命な判断だったと思う。
きっと、杖を出していたら、彼に向かって恐ろしい呪文を唱えていたに違いないから。
スネイプは一瞬、驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷徹な表情に戻った。
「一体、これは何のつもりかね?ミス・クローバー」
何のつもりか、こっちが聞きたい。
だが、今は確証がないまま問い詰めても、何の意味もない事はわかっていた。
チユは無理に笑みを浮かべ、「すみません、気分が悪くて…」と口を開いた。
その言葉が、自分の口から出るとき、内心では自分の薄っぺらい言い訳に嫌気がさしていた。けれども、今はこれ以上の事を言うわけにはいかない。状況が許さない。
スネイプはじっとチユを見つめ、眉をひそめた。その眼差しには、何かを見透かすような鋭さがあった。
「そんな程度でこんなところまで来たのか?」
その声は冷たく、鋭かったが、どこか心底面倒臭そうでもあった。
チユは心の中で舌打ちをしながらも、表情を崩さずに言った。
「本当に、すみません。少し休ませていただきます」そして、スネイプに抱きついたまま目を閉じた。
「何の冗談だ?」
スネイプは冷ややかに言った。「早く離れたまえ――」
その時、突然スネイプのマントに火がついた。
座席の下から、微かにハーマイオニーが呪文を唱える声が聞こえた。きっと彼女に違いない。
炎は瞬く間に大きくなり、周囲は騒然となった。
チユは急いでハリーの方へ目を向けた。
すると、ハリーは無事に箒に跨がり、飛び上がろうとしているところだった。
これで、もう大丈夫だ。
チユは杖を取り出し、呪文を唱えた。
「アグアメンティ」
すると、杖から勢いよく水が飛び出し、炎を一気に消し去った。
びしょびしょに濡れたスネイプは、チユを鋭く睨みつけた。
「お礼は今度、魔法薬学の教室を貸してくれるだけで結構ですよ、スネイプ先生。」
その言葉にスネイプの顔がよりひどく険しくなった。言葉もなく、ただその目でチユを睨みつけるだけだったが、その視線の奥に、僅かな驚きと怒りが混じっているのをチユは確かに感じ取った。