第11章 ハリーの空中戦
「ありがとう、ゼロが居なかったらきっと追い出されてたよ」チユは安堵の表情を浮かべた。
「教科書を忘れてたまたま戻ってきたんだけど、役に立たてたみたいで良かった」
ゼロは無造作に髪をかき上げ、照れくさそうに笑った。
「脱狼薬を作りたいって聞こえてきたんだけど、本当?」
ゼロが、真剣な眼差しを向ける。
「うん、大切な人が困っていて。もし私が調合できるようになれば、少しでも助けられるかなって思って…」
彼女の目にはほんのり切なさが浮かんでいた。
「ゼロのような腕があれば、きっと作れるよね?」
ゼロは一瞬黙った後、少し考え込みながら答える。
「まだ俺にも作れないけど、作れるようになるつもりだよ」
その言葉には、揺るぎない決意のようなものが込められていた。
彼にも救いたい人がいるのだろうか――
チユはその瞳に、確かな覚悟を感じ取る。
「今日は何を調合するつもり?良かったら、手伝わせてくれないか?」
「ありがとう、実はまだ簡単なおできを治す薬すら上手くいかなくて……」
チユが肩をすくめると、ゼロは苦笑いした。
「そうか…じゃあ今日は『ハナハッカ・エキス』を作ってみない?」
ゼロはふと顔を上げ、提案した。
傷を急速に癒す効果を持つ魔法薬だ。
「丁度必要な材料が揃っているし、試すにはうってつけだよ」ゼロは手元に並んだ材料を指さしながら言った。「難しいものじゃないし、持っていると意外と便利だ」
「なるほど、それなら助かるかも!」チユは目を輝かせながら答えると、ゼロと並んで調合に取り掛かる準備を始めた。
彼に手順を教えられながら作業を進めると、やがて薬草の香りが静かな部屋に広がり始めた。
2人の手が交互に動き、調和を保ちながら調合が進んでいく。