第10章 ハロウィンの大惨事
その時、無情にもトロールの足が再び動き始めた。自分の手元にない杖をどうしようかと悩んでいる暇はない。
「あっ!鼻にパンチを喰らわせるのは…!」
チユが閃いたかのように、全く役に立たないアドバイスを口にした。
「相手はグラップとゴイルじゃないんだぞ!」
ロンが突っ込み、即座にそのアイデアが現実的でないことを指摘した。
そうだ、トロールはグラップとゴイルなど足元にも及ばないほど巨大だ。
「ああ、そうだ!」チユはようやく冷静さを取り戻したように、ローブの中から以前フレッドとジョージからもらった『糞爆弾』を取り出した。それが今、役立つとは思いもしなかったが、この状況では他に選択肢もない。
爆弾が爆発すると、悪臭が鼻を突き刺すように広がり、その香りと、すでにトロールから漂っているひどい臭いが混じり合って空間を満たす。
既にトロールの匂いで鼻が麻痺していた3人は爆弾の匂いには無傷だった。
肝心のトロールの方も効いていないようであったが……。
少なくとも、注意が引き寄せられたことは確かだ。
「2人とも、何か呪文を唱えて!なんでもいいから!」
チユは急かすように叫んだ。
ロンとハリーはすぐさま杖を取り出し、焦って呪文を唱え始める。
「えーーっ!えっと…おひ…お日様…雛菊…とろけたバタ〜〜…」ロンが訳の分からない呪文を唱え始めたので、チユは慌てて遮った。
「その呪文は今じゃない!」
ロンが唱えた呪文は、まるで何の意味もないように響いた。コンパートメントでスキャバーズを黄色に変えようとした際に唱えた呪文がそのまま口をついて出たのだろう。
トロールを黄色に変えたところで、まったく無意味だ。そもそも呪文は成功していない。
チユは思わずため息をつき、再度ハリーに託した。
「ウィンガディアム・レヴィオーサ!!」ハリーが力強く呪文を唱えると、トロールの手から棍棒が突然飛び出し、空中を大きく一回転した。
その後、棍棒は鈍い音を立てて、持ち主の頭に直撃。トロールは一瞬よろけ、次第に足元を失っていく。
その結果、トロールはついに大きな音を立てて倒れ込み、床を強く揺らした。その衝撃で、部屋の中が激しく震えた。