第10章 ハロウィンの大惨事
巨大なトロールがゆっくりと、しかし確実に女子トイレへと入っていく。
その時、グレンジャーの叫び声が響き、チユは一瞬で状況を把握した。急いで駆けつけると、トロールはすでにドアの前に立っていた。巨大なこん棒を振り回し、何かに当たるたびに壁が震え、その破壊力に圧倒されそうだった。愚鈍で力任せに動くその姿は、恐怖そのものだった。
「グレンジャー!」チユは声を上げながら、すぐに杖を取り出そうとした。
しかし、ポケットの中には杖がない。慌てて手を探るが、どこにも見当たらない。
「ど、どうしよう…!」チユはあたふたし、顔を青くしながら狼狽し始めた。
「どうしたんだ!?早くやっつけてくれよ!」ロンとハリーは、まるでチユが魔法を使うだけで全て解決すると思っているかのように焦って叫んだ。
「杖忘れちゃったかも」チユが半べそかきながら呟く。
「「ええええぇぇぇ!?!?」」
ロンとハリーが同時に叫ぶ。
信じられないと言わんばかりの顔でチユを見た。
その顔は、まさに「どうして今、杖を失くすんだ!」といった表情だった。
チユがトロールを前にして怖気づかず冷静でいられたのは、自分の呪文の腕に自信を持っていたからだ。
しかし、今はその自信が一瞬で消え去り、慌てふためき、おろおろするばかりだ。
「危ないから君は下がっていて!」ハリーが、チユを守るように前に立つ。
ロンも同じように動き、チユの身を守る姿勢を見せる。
「どうしよう、どうしよう…!」チユはスカートの裾を掴みながら、心配そうに呟く。
普段ならどこか頼りにされる彼女も、今は全く役に立たない。
「あーー!君はちょっと静かにしてて!」
ロンは、ついに我慢の限界に達したように叫ぶ。
その声には焦りと、少しの苛立ちが混じっていた。
チユの不安げな姿に耐えきれず、思わず口にしてしまった言葉だった。