第10章 ハロウィンの大惨事
しかし、次の授業にもグレンジャーの姿はなく、その日の午後になっても一向に彼女の姿は現れなかった。
優等生で真面目なグレンジャーが授業を欠席するなんて、よっぽどのことだろう。
チユは同室のパーバティに彼女のことを尋ねた。
「ハーマイオニー? 彼女、トイレで泣いてたわ。しばらく1人にしてほしいって…」
その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられる思いがした。
駆けつけて声をかけてあげたい気持ちもあったが、どうしても一歩踏み出せなかった。
口下手な自分が行っても、彼女を励ますどころか、きっと不快にさせるだけだろうという気がしてならなかった。
何より、今までグレンジャーに対してどう接してきたかを思い出すと、申し訳なさと後悔の気持ちが込み上げてきた。
ロンたちと一緒になって彼女を悪く言ったり、からかったりしていた自分が、今更どう励ますことができるのか。
どうせ何も言えないし、ただの偽善者に見えるだけだろう。
「ああ、もしフレッドとジョージみたいにユーモアに溢れていたら、彼女を笑顔にできたかもしれないのに…」と、チユは自分の無力さを感じた。
大広間の扉が突然勢い良く開かれ、慌ただしく入ってきたのはクィレル先生だった。
「皆さん!た、たたたい…たいへ…っ、大変です!」
全力疾走で駆け込んできたクィレル先生は肩で息をし、息も絶え絶えな様子だった。
頭に巻かれたターバンは半分ほど解け、汗が滴り落ちるほどだ。
それでも顔は真っ青で、恐怖に歪んだ表情を浮かべ、体全体が震えている。
「トトトトロールが、ちち地下っ…に!わ、わたしはおしっ…お伝えしなくては、と…っ」
言葉にならないような叫び声を絞り出したが、それを最後にクィレル先生はその場で意識を失い、崩れ落ちた。
途端に大広間は混乱の渦に巻き込まれ、生徒たちの叫び声が飛び交う。ダンブルドアはすばやく紫色の火花をいくつか放ち、ようやく生徒たちの注意を引きつけたが、騒然とした空気は収まることがなかった。