第6章 【親友】
少し潤んだ、桜色の唇。
「......」
俺は、ぼへーっとそれを眺めていた。
「李太、今日ちゃんと体操服持ってきたか」
その唇が開かれて、はっと我に返った。
「4月の頃、よく忘れていただろ?」
昇降口で、挨拶を交わし合う生徒の声が、耳に入ってくる。
バコッと、俺の頭の後ろで靴が置かれた。
俺がぼーっとするのも無理は無い...。
目の前には、絵本の中の王子様が間違って飛び出してきたかのような、美少年の親友ーー海里がいるのだから。
硝子のように、触れたら壊れてしまう位の繊細な顔立ちをしていた。
海里は、瞬きをするたび、長い睫毛が、前髪に当たっている。
「あーうん、大丈夫だから、海里」
ポリポリ、と俺は頭をかく。
そしたら急に頭を撫でられてしまった。
ーーーこいつ、俺をおちょくってやがる....
「良い子だ李太...それと、放課後の理科準備室には絶対近づくなよ。行かなきゃならない時は、俺がついて行ってやる...」
グッ、と強引に、海里に腕を引かれる。
落っこちそうな蜘蛛から、守ってくれたらしい。
「それ毎日聞くけど、何だ?学校の七不思議か何かか?あとありがとな、海里」
じ〜っと見つめたけど、海里はツンとすましているだけだった。
ほんと、何もしなくても絵になる奴だ..
そして、俺にだけ過保護な男だった。
「お前は黙って俺の言うことを聞いておけ。そんな事よりも....」
..出た、海里の俺様発言。
海里は、桜色の唇を、美しく歪ませた。