第5章 【ご主人様】
「君は本当に驚かせ上手な子だなぁ...はぁ、まだ心臓がバクバクいってるよ...」
主様は、額にうっすらと汗を浮かべて力なく笑う。
骨ばった指で、ネクタイを少し緩めていた。
ーーーですが。
チラリと、落ちて開かれたページを見る。
「主様、この私の目の前で、執事モノBLを熟読なさるとは...」
表情を一切変えず、腕を組む。
「こっ、これはだなっ...!...はは、君に見られてしまうとは恥ずかしい...」
ーーー私はただあるご奉仕をさせて頂く為に、飼われたのです。
「いつか、私に同じ事をさせようとしたのでしょう...」
と、私は主様を見下した。
「それともそういうプレイでしたでしょうか?」
ーーーそう、それは性的な。
主様を誘うように、執事服をはだけさせる。
「違う違うッ!それは君の勘違いだよ...!きっ、着直して貰えるかい...!?」
主様は、その渋いお顔を真っ赤にさせる。
渋々、執事服を着直す。
主様の年齢は40代半ばといったところだろうか。
若い頃は、なかなかの男前だったのではないかと想像できる位に、ダンディーで落ち着いた印象だった。
前に年齢をお聞きした際、
『君はまだ20代だろう?こんなオッサンの年齢を聞かせるのは恥ずかしくてね...』
と、はぐらかされてしまった事があるから、実年齢は謎のままなのです。
本当に、恥ずかしがり屋で不器用なお方だ。
ーーーそんな主様だから、いつもこうだ...。
ふう...と息をつく。
「私は主様に飼われた執事役ーーつまり、」
と、ここで目の下の影を濃くした。
「主様の奴隷なのですよ?」