第9章 【初恋】
外はどっぷりと暗くなっていた。
「...で?なんてメール届いてたんだよ...」
黒い部屋着に着替え直した海里を、俺は後ろからがっしり抱きしめていた。
「初恋の思い出は?だってさ...」
海里は、なんて事ないようにさらりと喋る。
「なんでそんな話!泪くんとやらはいきなり!」
「俺と友達になりたいみたいだな...多分李太にも同じようなメール届いてるだろ」
「あ、たしかに...つうか俺まだ怒ってんだからな!海里!」
海里は、若干目を丸くする。
ーーーちくしょう可愛いな...っ!もう一回分からせてやるか!?
だけど、甘えん坊モードの海里に搾り取られたからそりゃ難しいな...あと一週間ぐらいはエロい感情沸かない!
「海里お前だって、ラブレター俺が貰うの阻止しようとした事があったろ!虫ケラが落ちそうだって嘘ついてまでな!」
「なっ...!」
「あっ...」
やべ、触れちゃいけない話題だったかそれは...!
「っ....っ」
海里の顔が、林檎のようにどんどんどんどん赤くなっていってーー...
「気付いて...たのか...」
「ああ...海里の考えてる事なんか、すぐ俺は分かるからな...」
ぎゅう、とより一層強く抱き締めたら、海里は驚いてビクッとした。
「.............」
赤面したまま海里はジト目になって、俺の制服をきゅっとしてくる。
「李太...お前は...俺の事なんか、分かって...ない...」
「はいはい」
「本当に...分かったのか...」
「うん」
「李太...このまま帰るのか?」
「ああ...明日も、お前の家寄ってくから」
「本当に、帰るのか?」
恐らく海里は、また俺に抱かれたくなっている。
ーーー意外にこいつ、俺よりもエロいんだよなぁ...
「じゃあもうちょっと、一緒にいるか?」
海里の横で、俺はあぐらをかいて座り出した。
「いいの.....?」
この純朴な眼差し。いつもコレにやられてんだよなぁ...
「ああ、もうちょっとだけ」
海里の手を握った。
「はは...はははは...っ」
急に奴は笑い出す。天使でも悪魔でも無い美しい笑顔だ。
海里がその時、嬉し涙を一粒流していた事を、俺は永遠に知らない。