第9章 【初恋】
「うっ、わぁあっ!!」
泪は、とっさに俺を抱きすくめる。あまりにも、素早い反応だった。
ーーー!!!
泪の腕の中で、おでこが熱くなる。
「すみません!ブレーキが壊れてしまって!!大丈夫ですか!?」
大丈夫、です、
大丈夫、です....
言え...俺....呆然としてねぇで!
「うーん、危なかったねぇっ大丈夫?」
泪の長い髪の毛の中で、俺はハッとする。
身体を離さず、俺の目を覗き込んでくる。
「あ、ああ...!俺は平気だがっ...!」
ようやく声を絞り出せた。だけど、心臓はトクトクトク、と分かりやすく脈打つ。喉が、震える。
「大丈夫だよぉ〜だってねぇっあなたも大丈夫?」
と、泪は自転車に乗っていた少年にも微笑みかける。
ーーーやっ...、そ、その前に、俺の身体離してくんねぇ...!?
「大丈夫です!ごめんなさいでした!」
と、自転車少年は、ブレーキの壊れたらしい自転車を手で押して帰ってゆく。
ーーーえっと、えぇーっと、なんでまだこいつ...!!俺の身体離さねぇの!?
「瞬くん、まだ離れないで...」
吐息がかった声に、本気で胸が締め付けられる。
「エ゛ッ!?なんでだよ!」
顔が赤くならないように、精一杯踏ん張りながら、泪の腕の中で俺はもがく。
「だって、瞬くん心臓の鼓動激しいからねぇ...僕の腕の中で落ち着くまで待ってないと...」
ーーーうわ!心臓がバクバクだったのバレてたのかよッ!!
"泪に抱きしめられているせいで、心臓がバクバクしている"なんて、言える訳が無かった。
歯を食いしばって、深呼吸をする。
「僕の呼吸に合わせてねぇ...」
すぅー...はぁー...と、泪は吸う度に唇を若干尖らせた。
「くっ...ぅっ....っ!」
嫌でも、泪を意識してしまう。どうしよう、今顔が真っ赤になってたりしたら...!