第9章 【初恋】
「...まだ、何か...?」
さっきから、海里と呼ばれている美少年が、髪をはためかせながら振り向く。それだけで、見る人の心を奪うようだった。
「あの!お名前と連絡先教えてくれませんかッ!」
カナエの発言に、一旦俺と泪は驚く。
言われた海里、さんとやらは特に表情を変えていなかった。
「えぇ!?カナエ、な、ナンパ!?」
「イヤ違くてだな...もしかして今ので本当にあの子怪我したかもしんないじゃん...心配でさぁ」
こそっと、俺にカナエは耳打ちしてくる。
交通事故的な処理をしようとしてるらしい。
「え、ええ...でも、海里怪我どこも無いし大丈夫だよな?」
やんわりと、断りそうな雰囲気に持っていこうとしている。確か、李太と呼ばれた少年が。
「...別に俺は構いませんが」
本当に交換してくれるらしい。
「ええっ!!お前っ、このっ!う、裏切り者!」
「?どうした李太、なぜそんなに怒る...これ、俺の連絡先です...」
カナエは、連絡先を海里...さんと交換したみたいだった。QRコードで。
ーーーなんか今日は不思議な結びつきが出来たな...千聖といい、海里、さんといい...
「ええ〜じゃあ僕とも交換して欲しいなぁ...仲良くなりたいんだよねぇっ」
泪はお構いなしに、ずずいと海里、さんと距離を縮める。
「良いですよ」
ここは愛想笑いをした方が良いと判断したのか、海里、さんはニコリと微笑む。
天使の羽が一瞬見える程に美しかった。
ーーー泪以上の美人さんに、俺は初めて会ったな...
海里、さんは陶器のように透ける肌と、長い睫毛と、彫りの深い顔立ちの正真正銘の美少年。黄金比率を保っているのだろう。唇の色も、濃いピンク色で色っぽい。
あまりにも幻想的だった。別に、だからといって心が本気で動く訳では無かったが。
ちなみに俺の初恋の相手、泪も美形だ。睫毛が長いところだけは海里、さんと一緒だな...瞳が大きめで、甘いマスクで、海里、さんより女子ウケ抜群の顔をしてると思う。
ーーー俺泪の事贔屓してんのかな...?でもカナエもそう言うと思う。
「...では、これで...」
ぶつかった時みたいな、お人形さんのような硬い表情に戻り、海里、さんと李太、さんは去っていった。