第9章 【初恋】
「瞬!瞬!...っおい!」
ハッと、俺は我に返る。
放課後の、ガランとした教室の中にいる。
目の前には、いつものメンバーのカナエと、泪と、ーーー千聖がいた。
「初恋の話題振られた瞬間、急にぼーっとしてどうした?」
カナエが椅子から身を乗り出して、俺に聞いてくる。
「あ...いや、なんでもねぇ...」
「それで?」
泪の声に、ビクゥッ!と俺は肩を震わせた。
「瞬くんの初恋の瞬間は〜?僕、興味あるんだよねぇ...」
泪は和やかに微笑み、きれいな長髪を揺らす。
ーーーお前だよ、お前...。
「あー...あんまり覚えてねえかも!俺!」
急いで泪から顔を背ける。そしたら、「こっち向いて〜瞬君〜さみしいなぁ...」と、マイペース星人、泪にもっと興味を持たれてしまった。
ーーーぐっ、やめろよ...今もちょっと、お前が好きなんだからよ...
「まじかぁ瞬!俺は初恋の女の子覚えてるけどなーっ!」
そんな俺に気付かず、カナエはでっかく笑う。
「へぇ、弟さんかな?」
泪は微笑みをたたえながらカナエに返す。
「いや...ちげぇし...なんで泪、いま昴の事を口に出したんだ....」
と言う、カナエの声も最早耳に入ってこない。
心臓が、まだドキドキいってる。
あれは中学のプール授業の後の事だった。
女子の胸が気になるとかどうとか、ふざけた話を泪にしたら何故か俺が触られる事になって...
ーーー水着姿でそのまま、胸筋とか色んなトコを、泪に触られる事に...
中学こ頃の泪は今よりも性に奔放な奴だった。俺だけじゃない、親しくなった奴全員にだ。
思わせぶりな態度を取るから、今よりも女子にモッテモテで...。
でも、そんな俺の初恋の記憶など、泪はあまり覚えてないだろう。