第1章 【第1話】ニートを拾って
……あんまりキレイなので、やっぱり女性かなと思ったが、背中から感じる胸板は間違いなく野郎のモノでした。
胸元のチラリズムから、貧乳のモデルさんもありかなと思わず……
否、彼の性別などどうでもいい。
ともかく現状として。
いち。自力で運ぶことが出来ない。
に。事を大きくしたくないので人を呼ぶこともできない。
さん。彼を叩き起こそうとしたが、ゆすっても、叩いても目を覚まさない。
結論として、"人ではなく物を使えばいい"と発想の転換をした私は、傍の工場から台車を拝借し、彼を乗せて、家まで運んできたのでした。
女子高生が美青年を台車に乗せて、住宅街を一心不乱に爆走。
私がスカートめくれる勢いで滑走し、台車が揺れるたびに男の首が上下左右に激しくヘッドバンギングする。
傍から見たら、かなりシュールな光景だったかもしれない。
いや、寧ろ見られてない事を祈る。
後から冷静になって考えてみれば、見知らぬ男を両親不在の女の子一人暮らしの家に入れるなんてもっての外。
しかも男を回収する際に判明したが、あの刀、どう見ても本物です。
だというのに私ときたら、平和ボケか、はたまた混乱も生じてか、連れてきてしまった。
まあ、だからって、行き倒れを放置するのも、道徳的にどうかと思うのだが。
やっぱり警察を呼んだ方がよかったか。
複雑な心境の私は現在、この男ユーリのために皿に白米を盛り、ルーをかけている。
その様子を穏やかに眺めていた彼は、おかわりを差し出されると嬉しそうにスプーンを運び、一口二口頬張った。
「うん。うまい。玉ねぎとジャガイモと肉がよくルーに染み込んで実にうまい。
はカレーの天才だ」
「よく留守番賜る身なんで、カレースキルはプロ級ですよ」
「留守番の定番メニューはカレーかよ。
って事はなんだ、お前、親父かお袋がいんの?」
「今日から、夫婦水入らずで旅行してるの」
「おあついことで」
しみじみのたまいながら、ユーリは再びカレーに舌鼓を打った。
会って間もないのに、彼の砕けた態度に不思議と腹が立たない。
フレンドリーというのか、幼馴染と久しぶりに再会したような、いきなりお兄ちゃんが出来たような。
彼の性格なのだろうが、流石に何者かわからぬまま事態を放置するわけにはいかない。
「ところでユーリ。聞きたい事があるんだけど」
「うん?」
