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明星の意思、常闇の暁光【TOV夢】

第1章 【第1話】ニートを拾って


とだけ告げた彼は糸が切れたように、私の膝へ向かって、顔面から倒れた。
こ、今度こそ死ん……っ!
二度目の恐怖が過ぎ去り、やっと悲鳴を上げそうになったところへ、彼の腹から間延びした空腹音が邪魔するように鳴り響く。

………
………えっと、これは一体。

訊ねたくても、「何か食べ物」という単純明快な言葉を残した彼は、私の膝枕の上で小さな寝息を立てている。
実に心地良さそうだ。まず死んではいないだろう。

うん。どうしよう。
しばらく同じことを呟いた私は、間もなくして腹をくくった。





太陽がすっかり落ちた頃。地元はいつもの夜を迎えていた。
住宅街の窓から、蛍光灯の光と夕飯の香りが漂い、その内の二階建ての一軒からはカレーの匂いが逃げていた。

ええ、私の今晩のご飯は、昨日の夜から仕込んでおいた私お手製のカレーライスでした。
両親不在の間、毎日ご飯作るのが面倒なので、たくさん作り置きをしていました。
今頃は優雅にゲームをしながら、それで空腹を満たしていたはずなのに。


「わりぃ、おかわりしてもいいか」


空になった皿を私に突き出し、2杯目突入予告をするこの黒尽くめの男。
年の頃は20歳前後。長くしなやかな黒髪が印象的な美男子は、その挑発的な瞳で私にカレーライスの追加を要求していた。

ええ、学校の帰り道の森で空腹のあまり力尽きたあの男です。
――ユーリ・ローウェル。
自分でそう名乗った彼は、私ん家の台所で、私とテーブルを挟んで夕食を共にしていた。
どうして、こんな怪しさ大爆発の男とこうしているのだろう。




――理由は、今から1時間前に遡る。
当時私はまだ森の中にいた。
男を膝に放置したまま、どうしようどうしようと、悩みはしたが。
夜の迫る薄気味悪い森の中で、いつまでも頭抱えている余裕もなく。
男の怪我も大したことなかったので、救急車を呼んで騒ぎにするわけにもいかず。
ひとまず、家で手当てしようと判断した。

で。非力な女子高生が、180センチ前後ある人を担いで行くなど不可能。
試しに背負ってみたものの、当然背丈は足らず。
無理をすれば、彼の怪我が増えてしまう事請け合いだった。
特に足の部分が。

何より、私の理性に危険を伴う可能性があった。
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