第1章 【第1話】ニートを拾って
服装は現代から浮世離れしていて、強いて言うなら西洋ファンタジーにでてくる冒険者かラフな格好したアサシン。
おまけに左手に握られた刀は包丁にも似た鈍い輝きを放っており、嫌にリアルだ。
「なんだこのコスプレは。……もしやキチ○イ?」
私が思わず放った失礼な発言に、立ち上がって斬りかかって来るんじゃないかと思ったが、幸いその様子は無い。
聞こえていないのか。
寝ているにしては、私があんだけ騒いでいたのに反応ひとつしない。
なんかぐったりとしていて、まるで死ん――
「殺人事件……っ!!」
とんでもない事態を察した私は、稲光に打たれたように身を震わせた。
血糊のついた鞘と刀を掴んだ男がぶっ倒れている、イコール殺人ではないか!
人目につかない森だし、服装も変だし、きっとキ○ガイか電波な連中がモニョモニョして、殺人なんていらん化学変化を遂げたのでは?!
だったら、私一人では手に負えない。
助けを呼ぶ為に、制服のポケットから携帯電話を取り出した。
「こ、こういう時って、117番!
いやこれは時報か。じゃあ110番? それとも119番だっけ?」
完全にパニックに陥っていた。
頭の中では、サスペンスドラマの死体発見シーンやブルーシートと警察の映像に"森に斬殺死体か"なんてテロップ流れてるニュースがグルグルと巡り、益々混乱する。
落ち着け、落ち着くんだ私! まだ死んでるとは限らないだろ!
とにもかくにも、人命最優先!
怖いけど、嫌だけど、まずは生死を確認して――
なんて近寄ってみたら、突然男が起き上がり、私の腕を鷲掴みにしました。
思わぬホラー現象に悲鳴を飲み込む私。
「ひぃ……っ!!」
「……っ、……な」
全力で振りほどこうとするが、男は手放さない。
何がどうなっているのか、彼の様子を伺おうにも、私を睨む闇色の目は虚ろで、意識があるのかさえわからない。
男の顔立ちからするに、年は20歳前後。とても眉目秀麗な青年だった。
加えて、どこか妖艶な雰囲気を持ち、口説かれたら10人中9人はコロっといってしまいそうである。
しかし今やその美しさは土泥で半減しており、それを向けられた私の淡いハートはただ今絶賛恐怖MAX中だったので、別の意味でコロっと逝きそうだった。
「あわわわわわわ……わ、おわっ」
「な、何か……」
「な、何?」
「食い物……」
