第1章 【第1話】ニートを拾って
――まっすぐ突き進むだけで、家路に着くのよ。頑張れ私。
怯む自分に活を入れて、大きな煙突のある工場の裏、森の中へ突進。
木々が夕日をさえぎっていて視界が最悪の中、積もる小枝や腐葉を蹴散らし駆け抜ける。
「木を避けながら走るのも大変だけど、足場が悪くてかなわないわ……」
元々手入れする気もないのか、枯葉に混じって大小さまざまな石が足の裏を痛めつけた。
歩きにくいことこの上ないが、自ら侵入した手前、文句を言うのは筋違いである。
「要はさっさと通り抜ければいいのよ……っとお?!」
雑草を掻き分けて進んでいると、カチンと硬いモノにつまづきこけそうになる。
もう片足で踏ん張って転倒は避けられたが、足の甲はしっかりダメージを受けていた。
「痛……っ。
誰だ! 人が来ないのを良い事に、粗大ゴミ放棄したヤツァ!!」
私も人が近づかないのを良い事に手付かずの森の中を横断しているわけだが、そこは置いといて。
足の痛みを紛らわすように喚き散らし、力いっぱい問題のゴミを手にしたところで、私は硬直した。
それは細長い鉄の棒だった。
キレイな曲線美を描いており、漆が塗られているのか表面は黒く艶やかで、棒の片側先端には何か差し込む穴が一つある。
時代劇とかで、侍が刀と納めて腰刺している「鞘」というヤツだ。
これだけなら、誰かが劇用の模造品を捨てて行ったのだろうと気にも留めないだろうが。
鞘に巻かれている布切れに、赤黒いシミが点々とついていたらどうだろう。
「絵の具……? なんか違う臭いがするんだけど、鉄棒?
いや、もっと錆びたような、そう、血――」
言葉をつむいでいくうちに、全身から血の気が引いていく。
なんで血糊のついた鞘がここにあるんだ。
流血沙汰があったのか。
近道を選んだつもりが、傷害事件に発展かよ。
そういえば、ここから二駅行った所で通り魔強盗事件があったような。
嫌な予感がして逃げ出そうとしたが、すぐ傍で別のものを発見し、立ち止まった。
「刀持ってる。男の人……だよね」
この闇の中に溶け込むように、一人の黒尽くめの男がボロボロの姿で倒れていた。
うつ伏せになっていて顔は見えないが、その髪型は漆黒でまっすぐな長髪。
コレだけ見れば、女性と勘違いしそうだが、背が私より頭一つ分あるから、それも難しい。