第1章 【第1話】ニートを拾って
まだ痺れの残る両足を鞭打って立ち上がり、辺りを見回してみた。
どこもかしこも真っ暗で、湿った臭いが鼻につく。
地下水路だろうか。
とっとと脱出して、フレンにこのこと問い詰めねぇと。
――ん?
出口を探して注意深く周囲を見渡している中、何者かの視線を感じ、足を止めた。
それを「気づかれた」と捉えたのか、辺りから複数の気配が膨らんでいく。
騎士団の次は、なんだってんだ……っ。
「嘆いていても、始まらねえ。いっちょ、やりますか」
ニートを拾って
君が来て、私が逝っちゃって
私は駆けていた。
夕暮れ時、人気がないのをいい事に、帰り道を恥も捨てて全力疾走していた。
腕時計に目をやれば、短針は6時、長針は20分を指している。
――まずい、録画が間に合わない。
昨日の内に連続番組を予約録画しておくべきだったのだが。
徹夜のテスト勉強ですっかり忘れていたのだ。
運悪く両親は結婚記念日の旅行で不在のため、メールで録画を頼むことはできない。
勉強勉強と口煩い親がいなくてコレ幸いと思いきや、よりにもよって中間テスト一週間前に重なるとはなんたる不運。
もうため息しか出てこない。
断っておくが、決して頭が悪いわけではない。
ただそこそこの成績を保たなければ、自由になるお小遣いがもらえないだけだ。
録画なんて諦めてしまえば楽なんだろうけど、毎週欠かさず録っているので一回たりとも逃したくはない。
どうしたもんか。
見上げれば、空は既に暗闇と黄金色のグラデーションに染まっている。
ただ今日はいつもの光景とは少し違っていた。
「やけに星が多いわね」
時間帯を差し引いても、少々星が出すぎているのではないか。
私の住んでいる街は都会とまではいかないが、田舎というわけでもない。
「なんて空を気にしている場合じゃない! 時間が……!
こうなれば、最後の手段よ」
最後の手段――要するに近道である。
最初からそうしろと突っ込まれそうだが、いかんせんその近道とは「部品工場の裏にある、普段だれも立ち入らない不気味な森の中を迂回せずに直進する」というもので、避けたい手だったのだ。
森は朝夜問わず薄暗くて近寄るのも怖いが、四の五の言っていられない。