第1章 【第1話】ニートを拾って
「いらん方向に努力のベクトルかたむけるな! まずは昇天させないところから始めんかい!
それよか、貴様の接吻には蘇生効果が?!」
「ライフボトルいらずだね」
「私のライフは瀕死寸前だ。呼吸遮る接吻など、私には窒息死効果しかありませんよ。
練習するって何ですか。特別授業で登場する、あの人工呼吸訓練用の不気味な人形か?
……て、あの、突っ込んでいる最中に、目を輝かせて私を見ないで下さい」
「最終的には息を吹き返したのだから、成功でいいじゃないか。
いい経験になったよ」
私にとっては暗黒の歴史だ。
散々ナナメな発言しながら、私の全力の突っ込みを華麗にかわし、正面から受け止めても真顔で首をかしげるこの男。
それだけ一生懸命だったという事か。
人の命が懸かってたんだから、仕方がないと言えばそうなんだけど。
「あれがファーストキスだったなんて……。
人工呼吸ってのはあんまりかと。
相手はまあ、凄くカッコイイんだけど。ううーん……、えええええええ」
「初めてが、なんだって?」
「いいえ! 私事ですから気にしないで下さい!
危ないところを助けてくれたのに、取り乱しちゃってすみません。ありがとうございました」
「死にかけていたんだ、混乱して当然だよ。
君の気分が落ち着くまで、僕が傍にいるから、ここでゆっくりしているといい」
あたふたと頭を下げると、彼は極上のスマイルでこれを返した。
ここで待っていろと言われても、展開が飲み込めていないのに冷静にいられるはずがない。。
乙女の記念とかどうとか、感触がどうとか悩んでいる暇など、今の私にはないはずだ。
自分の貞操よりも、残してきたユーリがどうしているのか確かめなければ。
「すみません。助けてくれたお礼がしたいのですが、私、行かなくちゃいけないところがあるんで」
「いや待つんだ。まだ休んだ方がいい」
「急いでるんです」
男の制止を振り切り、立ち上がろうとするが、体力が万全ではないのか腰に力が入らず、膝が笑ってバランスを崩してしまう。
危うく尻餅をつきそうになったところへ、男が私の脇と足に手を回し、抱き上げた。
イッツ、プリンセスホールド。
私は発狂した。
「ほおおおああああああつっ?!」
「ごめん、危ないと思って、つい。
驚かせてしまったかな」