第1章 【第1話】ニートを拾って
「直に見に行くしかないか……」
「行くなら、昼間になるね。夜中だと暗くて調べようないし。
服装もユーリのあの服じゃ浮くから、こっちで適当なの用意するわ」
「いいのか? 動きやすくて楽なのがあればいいんだが」
「お父さんのセンスに賭けろ」
「オレはお前の親父さんに会ったことも見たこともねーんだけど。
そんな言い方されたら、猛烈に怪しくなってきたじゃねーか。親父のセンス」
「ごめん。実はユーリのその胸の谷間を露出させるような艶かしい服はないの」
「そっちの趣向に走らなくてもいい」
「まあ、ほどほどのを選んでおくわ。
ユーリの服も今日のうちに洗って乾燥機回して、明日の朝には返せると思う。
――はい、髪乾いたよ」
「ありがとさん。
オレを拾ってくれたのがで非常に助かりました。
夕飯から髪の手入れまで、至れり尽くせりで、大変感謝しています」
ユーリは長い髪をふわりとなびかせ、セリフを棒読みしながら仰々しく一礼した。
留守番が多いので、家事全般の手回しが利くだけなのだが。
「まあ、ユーリを連れてきたことに関しては、私が警戒心の欠片もないただの間抜けだからだけど」
「素晴らしい方向に抜けたもんだ。
是非とも、下町の連中に紹介してやりたいね」
「なんて紹介するのよ」
「この娘さんは、得たいの知らねぇ物騒な兄ちゃんの夕飯から髪の世話までする、とんだお人好しだってな」
「その物騒な兄ちゃんは私の膝で爆睡して、白昼堂々台車で運ばれて、カレー三杯も食べるけど、悪漢から私を守ってくれた良い人なんだよね」
「褒めてんのか貶してんのかわかんねーな」
「ユーリの皮肉もでしょう。
あのさ。ユーリが住んでるザーフィアスの下町って、どんなところ?」
「オレ、夕食の後に話さなかったっけ?」
「ああいう政治とか生活の基本的な営みじゃなくてさ。
もっと、こう、どんな人が住んでいるのかとか。
ユーリは普段どんなことしているのか知りたいの」
「オレの私生活どころか、知り合いのことまで?
変わったこと聞くのな、お前」
「いいじゃないの、変わってても。興味あるもん」
「明日があるんだ。さっさと寝ようぜ」
「まだ寝るには早すぎるよ」
「眠れないのか。ったく、しょーがねえヤツだな。
オレが添い寝してやるから、思う存分悶えて爆睡しろ」