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明星の意思、常闇の暁光【TOV夢】

第1章 【第1話】ニートを拾って


彼の髪はブラシを入れると頭から毛先まで難なく通り、手で拾うとスルスルと零れ落ちる。



「いいなあ、黒髪ストレート。ああいうのはコマーシャルだけの世界と思ってたよ」

「よくわからねぇけど。お前の髪も黒くてそこそこ長いじゃねーか」

「質が違うのよ、質が」

「質だ? 髪なんてもん、人の好みによるだろ。
他人の髪いじくってないで、お前もこんくらい伸ばしてみろよ。
似合うんじゃないか」


身の回りの事で手を焼かれるのが嫌なのか、彼は自分の髪から私の髪へと矛先を変えようとした。
バカめ、そう簡単に髪が美しくなるものか!

ユーリ本人は自分の髪質にあまり関心がないようである。
コイツ若い内にこんだけ毛根酷使しまくって、後に禿げたりしないだろうか。
手入れしないでここまで健康的な髪を保てるから、気にするだけ無駄なのかもしれない。


「羨ましいなあ」

「そーかい」

「私は好きだよ。ユーリの黒髪」

「……」

「ユーリ?」

「……ん、ああ。なんでもねえよ」


聞いていなかったのか、言葉に詰まらせるユーリ。
何か別の事でも考えていたのか、後ろからでは表情を知ることは出来ない。
お陰で話は区切られてしまい、しばらくドライヤーの音と沈黙が部屋を支配した。


「……」

「……」

「……」

「……なあ、」

「何? 後もうちょっとで髪乾くから、じっとしてて」

「適当でいいんだよ。腕疲れるだろ。
それより明日なんだが、オレ、例の森に行こうと思う」

「貴方が倒れてた、あそこ?」

「他に手掛かりないからな。
そこで聞きたいんだけど、あの森って何か曰くとかあるのか?」

「曰くねえ……」


そう訊ねられても、私だって知らない。
聞いたことがあるとすれば、新月の夜に行くと人魂が出るとか、丑三つ時にあそこを通ると黄泉の道が開くとか、小中学生でも鼻で笑いそうな眉唾ネタしかない。
木々の生え方が問題なのか、日当たりは最悪で薄気味悪いが、所詮その程度。
何故か他の空き地や駐車場のように開拓もされることなく、今現在までずっと放置されてきた。
そう伝えると、ユーリは少し黙考した後、大きな溜息を零した。
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