第1章 【第1話】ニートを拾って
オレは駆けていた。
日の当たらない裏路地をタルや木箱を飛び越え、ひたすら走る。
ちらりと背後に目をやれば、数メートル後から凸凹二人組の騎士の姿が見え隠れしていた。
――本日は随分とやる気だな。
本来ならば、障害物が手助けしてくれて、簡単にやり過ごせるのだが。
毎回毎回苦汁をなめさせられているオレに、今度こそ騎士の誇りと意地を見せつけようと、粘り強くついて来ているんだろう。
その無駄に有り余ったエネルギーをもっと別の方向に活用してほしいもんだ。
もはやため息しか出てこない。
こうなったのも、オレが貴族の領地内にお邪魔したせいなんだが。
だからといって、甘んじて捕まるつもりもない。
一発気絶させて撒こうかとも考えたが、ここはあまりにも狭すぎる。
切った張ったなんてできない。かといって、このまま下町へ戻るのもまずい。
どうしたものか。
見上げれば、光の帯が青空から街を守るように覆っている。
――いやいや。
いくらなんでも、街から出るわけにはいかねーだろ……
浅はかな考えが過ぎり、即座に頭から振り払った。
仕方が無い。持久戦に持ちかけよう。
速度を落とさず、手前の左手の路地へ急カーブした。
次に目に留まった角を右へ。
まだ後ろの方では、例の騎士たちがヘトヘトになりながらもオレのフルネームを叫んでいる。
――しつこいな。
ヘドを吐きながら進んでいくと、次の分かれ道に差し掛かったところで丁度いい路地を見つけた。
しばらくあそこで身を隠すか……。
背後の視線に気を配りつつ、姿が見えなくなった一瞬の隙をついて、闇へと身を躍らせる。
連中の目から逃れる為、更に奥へ進もうとして、その片足が崩れた。
慌ててたたらを踏もうとするが、そこにあるはずの地面の感覚もなく、足は空を切る。
しくじった! こんな所に穴!?
そーいや、下町の道路工事は手抜きもいいところだからなあ。
などと降りかかった災難を冷静に受け止めつつ、身体をひるがえして、着地を試みる。
しかし、穴は想像以上に深く、地面に降り立った衝撃が鈍い痛みとなって足から膝へつき抜け、呻き声を上げてしまった。
住宅密集地帯の下に、簡単に地面抜けるようなふっかい地下あっていいのかよ。地盤沈下するぞ!