第1章 【第1話】ニートを拾って
驚いて振り返ってみるものの、誰もいない寂しい道路が続いているだけ。
――気のせい?
例えここまで誰かがついてきたとしても、台車の音で少々の物音など掻き消えてしまっていただろう。
私をつけている人がいるかもしれない。
一瞬ユーリかと思ったが、隠れる必要はないはずだ。
じゃあ、誰が……?
脇に嫌な汗が出てきて、両肩と背中の筋肉が萎縮する。
私の勘違いだと信じたい。
高まる心拍数を抑えようと胸に手を当てて、大きく深呼吸する。
そして、誰もいないのを確かめる為に、一歩また一歩足を前へ運んだ。
右の駐車場を見て、左の荒れ放題の空き地を見て。
……やっぱりいない、と息をついた瞬間。
左肩に強い衝撃が襲いかかり、勢いで堅い道路に身体を叩き付けてしまった。
「あぐ…っ?!」
何が――?
「バカが、頭狙えよ」
前から知らない男の声がした。
誰だ? 何がどうした? 何が起こっているの?
左肩が痛みが走り、混乱しつつも、起き上がろうとする私の右腕を何者かがひねり上げた。
「ったい! 何するの!」
「大声出すな」
言われて、すぐさま手で口を塞がれてしまう。
誰?! 振り向きたくても後ろから拘束されて身動きが取れない。
恐らく私を殴り、腕をひねり上げたヤツだろう。
代わりに、目の前には冬でもないのにニット帽を深く被り、サングラスをかけた厚手のジャケット姿の男が立っていた。
顔はよくわからないが、恐らく頭を狙えといったヤツだろう。
……そうか、私殴られたんだ。
「夜道に女子高生みつけるなんてついてる。
だけど、なんで台車ひいてんだろ」
ほっといてくれ。
「別にいいじゃん。さっさと金だ、金」
お金……?
まさか、こいつら例の通り魔か。
戦慄を走らせる私を置いて、通り魔たちの会話は進んでいく。
ニット帽の男の一言で、その会話はどんどん怪しい方向へと傾いていきました。
「えーっ。もったいなくね?」
「何がだよ」
「女子高生だよ、現役女子高生。
こんな真夜中に、たった一人で」
ニット帽の男は、いやらしそうにのたまった。
何か深い意味を含んでいるようだが……、まさか?!