第1章 目覚め
パイロと別れて、しばらくその辺を歩いていると、急に自分が空腹だということに気づいた。お腹が鳴り、少し顔をしかめた。
周囲を見渡すと、木々の間に実をつけた枝がいくつも見える。
「木の実でも取ろうかな…でも、当たったら怖いしな。」
毒があるかもしれないと思うと、手を伸ばす気にはなれなかった。
食べないままでいるのも辛いけれど、それでも食べ物には警戒心が強くなっていた。
その時、急に心がぽっかりと寂しくなった。パイロと一緒にいた時の温かさが、今は遠く感じる。
孤独感が包み込み、急に涙が出そうになるのをこらえながら、私は気を紛らわせようと、ふと頭の中に浮かんだ歌詞を口にした。
「♪悲しみが空へ舞う…風を呼び、大地を…」
静かな森の中に、私の声だけが響く。その歌詞が心に寄り添うように響き、少しだけ気持ちが落ち着いた。
だが、歌を続けるうちに、何か奇妙なことが起こった。突然、空が曇り始め、周囲の空気がひんやりと冷たくなった。
木々の間から差し込む光が鈍くなり、雨粒がぽつりと落ち始めた。
「え…?」
驚きと共に歌を止めると、雨がぴたりと止まった。
空が再び明るくなり、さっきの曇り空が嘘のように晴れ渡っていく。
「え、何?今の…通り雨…?」
私は立ち尽くし、空を見上げた。
まさか、そんなはずはないと思い、もう一度歌ってみることにした。
「♪悲しみが空へ…」
再び口を開くと、また空が曇り始め、雨がぽつりぽつりと降り出した。私は驚き、歌を止めると、やはり雨もすぐに止んだ。
「どうして…?」
今、私は何をしているのか、はっきりとわかった。
私の歌が、天候を操る力として働いているのだ。
歌が、周りの環境を変えてしまうその感覚。信じられないような力を持っている自分に、言葉を失った。
「この力は…何…?」
心臓が高鳴り、全身に冷たい汗が浮かぶ。自分が持っている力に気づいた瞬間、恐れと驚きが入り混じった。