第1章 目覚め
茂みの向こうから現れたのは、見知らぬ男の子だった。
風に揺れる綺麗な茶髪が目に入る。年齢は私より少し上くらいだろうか。
顔立ちは中性的で、どこか儚げな印象を与えつつも、その表情には驚きと戸惑いが混じっているのがわかる。
「え…?」
私はその男の子を見つめ、言葉を失った。
彼の視線が、どこにも焦点を合わせていないことに気づいた。
まるで空を見上げているような、虚ろな目だ。
「…目が見えないの?」
思わずそのことを口にしてしまった。
少年は驚いた顔をするが、静かに頷き、私を見つめ続け、その穏やかな声が響いた。
「うん、そうだよ。」
その言葉に、心の中で小さく息を呑んだ。目が見えないのに、どうしてこんなところにいるのだろう?
不思議に思いながらも、私は自分が裸で湖に入っていることに気づいた。
「わっ、あっ…!」
慌てて自分の服を探し始める。冷たい湖の水を跳ね上げながら、焦りが込み上げる。
「ご、ごめん、すぐに着替えるから!」
手を震わせながら服を見つけ、必死で着替え始めた。
目の前で何が起こっているのか、彼には分からない。私は男の子が何も言わずに静かに待ってくれているのがありがたかった。
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「お待たせ。」
服を着終わると、ほっと息をついて、男の子の方に向き直った。
「気にしなくていいよ。」
微笑んでそう言うと、どこか心地よく、私の動揺を静めてくれるようだった。
「…君、初めて聞く声だけど、どうしてここにいるの?」
ふと、彼が尋ねる。
彼の視線はやはり合わさることなく、私の方に向かっている。