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月の祈り

第1章 目覚め


村を追い出された私は、ただひたすら歩き続けていた。

どれくらい歩いただろうか、辺りはすっかり暗くなり、私は疲れ切っていた。

「どうして……ここはどこ……」

小さな声が漏れた。

何も分からない。自分がここにいる理由も、どうして追い出されたのかも。

ただ無力感だけが募る。

その時、ふと目の前に何かが見えた。

「…洞窟?」

小さな洞窟が目の前に現れた。その入り口は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。

何か安心できる場所を探し続けていた私は、その場に立ち止まり、洞窟の中を見つめた。

(…今はここで休むしかない)

洞窟に足を踏み入れると、ひんやりとした冷気が私を包み込んだ。

そして、洞窟の前には小さな湖が広がっていた。

「水……」

酷く喉が渇いていた。

口の中は砂を噛んだように乾き、体の中から水分が欲しさに呼びかけているような感覚だった。

湖のほとりに近づき、両手で水をすくい、口に含む。

冷たくて清らかな水が喉を通り、ようやく体の中に少しだけ安らぎが訪れた。

「…うん。」

少しだけ目を閉じ、喉の渇きを癒してから顔を上げる。

その時、ふと、水面に映った自分の姿が目に入った。

最初はそれが自分だと信じられなかった。

水面に映るのは、赤い耳と金色に光る目、そして赤い髪が風に揺れる姿。

狐のような赤いしっぽが背後で動いているのが見えた。

「…え?」

私はその場で固まった。

目の前に映る姿が、まるで自分ではないような感覚に陥る。

赤い耳、金色の瞳、そしてしっぽ。あまりにも自分らしくないその姿に、驚きとともに冷や汗が背筋を走った。

「これ……私?」

恐る恐る、手で耳に触れ、髪を触る。

触れるたびに、自分の身体が異質なものだと実感する。

今、目の前に鏡のように映し出された自分に、心の中で戸惑いが広がっていった。

「...これを見て、化け物って言ってたの...?」

呟くと、風が吹き、湖の水面が揺れた。私はその揺れを見つめながら、心の中でただ一つ確信を持っていた。

この姿が、私自身だということだけは、間違いなくわかる。

でも、どうして?

どうして私はこんな姿をしているのか、何も覚えていない。

私は再び自分の姿を見つめ続けていた。
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