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月の祈り

第1章 目覚め


しばらくすると、カイトが食事を持って戻ってきた。

「ほら、食えるか?」

私は布団の上で少し体を起こし、素直に「ありがとう」と礼を言う。

カイトは「おう」と短く返すと、私の前にトレーごと皿を置いた。

湯気が立ち上るスープ。おそらく栄養満点の優しい味がするやつだろう……と、思ったのも束の間——

(……ん? なんか臭いが……)

ふわりと立ち上る香りに、条件反射で顔が引きつる。

なんだろう、なんか分からないけど、すごく嫌な予感がする……。

「……あの、これ……具材って何ですか?」

カイトはスプーンを手に取りながら、あっさりと答えた。

「ホーロー鳥のレバーだが?」

「……レバー……?」

瞬間、記憶にはないはずなのに、全身が拒絶反応を示した。

(これ、多分……私、苦手なやつだ……!!)

「出血が多かったからな。造血作用のある食材だけで作った。」

そう言って、カイトは私のスープを掬い、そのままスプーンを私の口へ運ぼうとする。

(えっ、ちょ、待って!? 心の準備が…!!)

慌てて身を引こうとするが、体がまだ動かない。

「ヒツキ、もしかしてレバー苦手なの?」

無邪気な声が飛んできて、私はビクリとする。

パイロは椅子に座ったまま、首を傾げている。

「……そ、そんなこと……ないよ……?」

いや、ある。あるんだけど。

でも、ここで「食べられません」とか言える空気じゃない。

「なら、食え。」

「え、でも……」

「食え。」

「いや、でもその……」

「食え。」

カイトの無駄のない圧力に、私は震えながら口を開くしかなかった。

——覚悟を決めて、スプーンを口に入れる。

(……っ、うぅぅぅぇぇぇぇ……)

レバーの独特な風味が口の中に広がる。

「……!?」

味を感じた瞬間、涙が出そうになる。

カイトはじっと私を観察しながら、「よく噛め」と指示を出してくる。

(これ、拷問……)

「ヒツキ、大丈夫……?」

パイロの心配そうな声が聞こえる。

私は涙目になりながら、無理やり飲み込んだ。

「……ほら、食えるじゃないか。」

「…………はい。」

カイトは満足げに頷くと、またスプーンを掬った。

(終わってない……!!?)

こうして私は、栄養という名の試練に耐えることになったのだった——。
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