第1章 目覚め
「……よし、全部食べたな。」
カイトが私の様子をじっと見て、静かにそう言った。私は力なく頷く。
涙目になりながらなんとか完食したものの、口の中にはまだ微かにあの独特な味が残っている気がする……。
「次は体を拭くぞ。」
「えっ……?」
私が言葉を発する間もなく、カイトは濡らしたタオルを手に取り、手際よく私の髪を拭き始めた。
「待っ……自分ででき……っ!」
「無理するな。」
低い声でそう言われると、反論の余地もなく、大人しくされるがままになってしまう。
カイトの手つきは荒っぽいようで、意外と優しい。
「……ありがとう。」
小さく礼を言うと、カイトは「気にするな」と短く返すだけだった。
「僕も手伝うよ。」
パイロがそう言うと、手探りで私の腕を拭いてくれる。
彼の手はぎこちなくも、優しく丁寧に動いていた。
「よし、終わりだ。」
カイトがそう言ってタオルを置くと、私はようやく安堵の息をつくことができた。
「今日はもう遅い。ゆっくり休め。」
そう言うと、カイトは私をベッドに寝かせ、軽く毛布をかけてくれた。
そして部屋を出る前にちらりとこちらを見てから、静かに扉を閉めた。
***
「……パイロ?」
隣でごそごそと動く気配を感じて、私は目を開ける。
パイロが手探りで椅子を用意している。
「…椅子で寝るの?」
「うん、僕は大丈夫だから。」
パイロはそう言うけど、きっと疲れているはずだ。
「こっちにおいで。」
「えっ……?」
「ベッド広いし、一緒に寝よ?」
パイロは一瞬戸惑ったようだったが、しばらく躊躇した後、おそるおそる布団の中に入ってきた。
「あずきはもう先に寝ちゃってるしね。」
私の頭の近くで丸くなっているあずきが、小さく喉を鳴らしている。
パイロは小さく息を吐くと、静かに横になった。
「……ヒツキが目覚めて、本当に安心した。」
ぽつりと、パイロが呟く。
「これから僕は……僕たちは、どうしたらいいんだろう……。」
その声は、まるで迷子の子供のように不安げだった。
私はそっと手を伸ばし、パイロの手を握った。
「大丈夫だよ、私はずっとパイロのそばにいる。」
「……うん。」
パイロは少しだけ握り返してくれた。
その温もりを感じながら、私は静かに目を閉じた。