第1章 目覚め
「パイロがいた村が……襲われました。」
その言葉に、カイトがわずかに目を細めた気がした。
私は続ける。
「村が炎に包まれて、悲鳴が響いて……パイロとパイロの両親に会ったときには、もう村はほとんど壊滅していたんです。」
パイロがぎゅっと私の手を握る。
「一緒に逃げようとしたけど...、大きな男が追いかけてきて、パイロの両親は……私にパイロを託しました。」
その言葉を言い終えると、パイロの肩が震えた。
「……それで?」
カイトの声が促す。
私は少し息を整え、再び話し始めた。
「……パイロを連れて逃げる途中で、ウボォーっていう男に追われました。」
「ウボォー?」
カイトの口調がわずかに変わる。
「大柄な男で……拳の一撃で地面が砕けるほどの力を持っていました。」
「戦ったのか?」
「いえ...。」
その瞬間、私の脳裏に、あの恐怖が蘇る。
「……戦うなんて無謀なことだって分かってました。でも、あの時は……パイロを逃がすために、囮になるしかなかったんです。」
息が苦しくなる。
「必死に逃げたけど、すぐに追いつかれて……。」
ウボォーの拳が振り下ろされる瞬間の、あの絶望的な感覚。
「……思いつきで、土にまみれた血をそいつの目に投げつけて、なんとか逃げました。」
それを言い終えると、私は深く息を吐いた。
「それで…息を潜めて隠れてたら、…マチって呼ばれていた人と、ウボォーが『みんな片付いたから、緋の目を回収しろ』って話していて……。」
話しながら、胸が苦しくなる。
「……おそらく……村の人たちはもう……。」
最後の言葉を言い終えた瞬間、パイロの手が震えた。
「……っ……!」
彼の小さな嗚咽が部屋に響く。
「お父さん……お母さん……」
両親の姿が思い浮かんだのか、彼は苦しそうに涙をこぼした。
私は何も言えず、ただ隣にいることしかできない。
「……そうか。」
カイトの声が、静かに響いた。
そして、ゆっくりと私たちの頭に、不器用に手を置く。
「……頑張ったな。」
その一言に、私たちはこらえていた涙を堪えきれず、泣き出した。