第1章 目覚め
長い夢を見ていたようだ。
川のせせらぎがどこからともなく聞こえ、パチパチと木が燃える音が響いている。
そして——ふわふわとした柔らかいものが、そっと頬に触れる。
(……あずき……?)
ぼんやりとした意識の中、私はかすかな温もりを感じた。
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
視界はまだぼやけていて、天井がかすかに見えるだけだった。
少し視線を横に向けると、そこにはパイロがいた。
彼は私の手を強く握ったまま、椅子に座り、ぐったりと寄りかかっている。
(パイロ……?)
「……にゃーぅ」
あずきの鳴き声が、小さく響いた。
その瞬間——
パイロの体がピクリと震えた。
「ヒツキ……?」
息を呑むような声で、彼が私の名前を呼ぶ。
「……パイロ……?」
掠れた声で、かろうじて返事をする。
「ヒツキ……!よかった……本当によかった……!!」
パイロの声は震えていた。
何か言おうとしたが、声が出なかった。
それどころか——
「……っ!!」
体を動かそうとした瞬間、激しい痛みが全身を駆け抜けた。背中から肩、腕、足に至るまで、焼けるように痛む。
「ヒツキ……!?無理しないで!まだ起きちゃダメ!」
パイロが慌てたように、私の体を支えようと手探りで動く。指先が震え、息も乱れているのが伝わる。
「……ごめん」
必死に痛みに耐えながら、なんとか言葉を紡ぐ。
その時——
「気がついたか?」
低く、落ち着いた声が部屋に響いた。
私は驚き、ゆっくりと視線を動かす。目に映ったのは、長い髪をした若い男だった。
鋭い目つきとは対照的に、どこか落ち着いた雰囲気をまとっている。
「具合はどうだ?」
彼はそう言うと、私の隣にしゃがみ、静かに額に手を当てた。
ひんやりとした指先が、火照った肌に心地よく触れる。
「……熱は……少し引いたな。」
静かに呟く。
私はまだ状況が読めず、戸惑いながら男を見つめる。
すると、パイロが口を開いた。
「この人が僕たちを助けてくれたんだ…。」
「……助けてくれて、ありがとう。」
掠れた声でそう言うと、男は静かに頷いた。
少し間を置いて、私は恐る恐る尋ねる。
「あなたは……?」
男は一瞬黙り、それから落ち着いた声で答えた。
「俺はカイト。ハンターを生業としている。」