第1章 目覚め
パイロ視点
ドサッと音がして、心臓が激しく鼓動を打つ。
「ヒツキ!?」
彼女の体は冷たく、汗で湿っていて、どこか遠くへ行きそうなほど無防備だった。
「ヒツキ、大丈夫!?ねぇ、しっかりして!!」
僕は必死に呼びかけるが、返事はない。震える手で、ヒツキの肩を支えようとした。
(きっと怪我した上に走ったからだ!どうすれいいの…!?)
僕はその場で震えながら、息を整えようとしたが頭が回らない。どこかで彼女を助ける方法を考えなきゃいけないのに、思考がまとまらない。恐怖と焦燥が胸を締め付ける。
その時、近くで足音がした。
耳を澄ませると、無骨な足音が近づいてくる。
姿は見えなかったが、冷たい空気がその存在を感じさせる。
男がゆっくりと口を開く。
「...お前ら、何をしている?」
その言葉に、僕は反射的に声を上げた。
「お願い…!助けて!ヒツキが…ヒツキが死んじゃう!」
涙が溢れながらも必死に叫ぶ。呼吸も乱れ、手が震える。
「…これは…」
男は一瞬黙った後、静かに動き出し、緋月を抱き上げる音が聞こえた。僕から、彼女の僅かな感触が消えていく。
「えっ、ちょっと…!」
その動作に戸惑い、僕は慌ててその後ろに続こうとした。しかし、目が見えない僕には、どの方向に進むべきか全く分からない。
足元がふらつき、何度も転びそうになる。
(どうなってるの...?...この人は、敵……?)
その時、男が立ち止まり、僕をじっと見ている気配を感じた。
「お前は目が見えないのか?」
「...うん。」
僕は短く答えた。目が見えないことは分かっていたが、それを言葉にするのはなんだか悔しい気がして、少し言葉を詰まらせた。
「…はぁ...。」
短くため息を吐くと、男が僕を引き寄せ、担がれる。
「えっ、何…!?」
思いがけない出来事に、驚いて目を見開く。
「助けたいんだろう?着いてこい。」
男は冷静な声でそう言い、歩き出した。
その言葉に、少しだけ安心する気持ちが芽生えた。
(ヒツキ…、お願い死なないで。)
男に従い、僕は彼の腕につつまれなががら、心の中で願った。