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月の祈り

第1章 目覚め


どれくらい走ったのか分からない。

足が重い。喉が焼けるように痛む。

息を吸っても、肺が空気を拒むように痺れていて、まともに酸素が回らない。

(まだ……走らなきゃ……!でも……)

意識が遠のきそうになるのを、必死にこらえる。

背中に感じるパイロの重みが、唯一私を現実に引き戻してくれた。

——どこまで逃げれば、あいつらの気配が消える?
——どれだけ走れば、安心できる?

答えのない問いが頭の中を渦巻く。

(でも……まだ……!)

不安と恐怖に突き動かされるままに、私はただ、走った。



どれだけ時間が経ったのか分からない。

気づけば、月明かりに照らされた川が目の前に広がっていた。

「はぁっ、……はぁっ……っ!」

何度も息を吸おうとするが、苦しい。肺が焼けつくようで、まともに呼吸できない。

足がもつれて転びそうになりながらも、私は何とかパイロとあずきを地面に下ろした。

その瞬間——

全身を鋭い痛みが襲う。

「っ……!」

背中から頭にかけて、強烈な衝撃が走る。

視界が一気に揺らぎ、足元が崩れるような感覚に陥る。

「ヒツキ!?ヒツキ、大丈夫!?しっかりして!!」

パイロの声が、切羽詰まった様子で響いた。

「……は……ぐっ……」

息が、うまくできない。

声を出そうとしても、喉が焼けついて、まともに言葉にならない。

「ねぇ!お願い、返事して!!ヒツキ!!」

パイロの手が、手探りで私の頬に触れる。

その指先が小刻みに震えているのが分かった。

「……み……ず……」

掠れた声で、それだけを絞り出す。

這うようにして川へ向かおうとするが、力が入らない。

指先が泥に沈み、思うように動かない身体が、ただ重くのしかかる。

その時——

川辺の木のそばに、ぼんやりと人影が見えた。

(……誰……?)

霞む視界の中、その影がゆっくりと近づいてくるのが分かった。

でも、その姿をしっかりと確認する前に——

意識が闇に飲まれた。
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