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月の祈り

第1章 目覚め


(パイロを迎えに行かなきゃ……!)

震える足を引きずりながら、私はゆっくりと歩き出した。

しかし、さっきの衝撃のせいか大量に血を吐いてしまい、喉の奥が焼けつくように痛む。

背中の痛みもひどく、息をするだけで肺が締めつけられるようだった。

さっきの男が戻ってくる気配はない。

パイロを隠した場所に近づくと、そこには——誰もいなかった

「……パイロ……」

返事がない。

——嫌な予感がした。

「パイロ……?」

焦りが胸を締めつける。

「っ……!」

(どこ!? どこに行ったの!?)

もしかして、誰かに見つかった!?

恐怖が頭をよぎる。

(お願い、無事でいて……!)

その時——

「にゃーぅ」

「……!」

その声を頼りに走り出すと、少し奥の岩陰から、パイロが姿を現した。

「あ……」

私はすぐに駆け寄り、彼の肩に手を置いた。

「よかった……! 無事で……!」

心臓が締めつけられるような安堵に、膝から崩れ落ちそうになる。

すると、パイロが少し申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめん……。突然あずきが僕の袖を引っ張って、嫌な予感がして……だから、場所を変えたんだ。」

(……あずきが……?)

私は肩に乗った小さな相棒を見上げる。

「心配させてごめんね。」

パイロがそう言って、控えめに笑う。

「……よかった……!」

私は思わず、ぎゅっとパイロを抱きしめた。

パイロがぽつりと呟いた。

「……お父さんと……お母さん……、死んじゃったのかな……」

私は息を呑んだ。

何も言えない。

目を伏せたまま、ただ静かに、彼の手を握ることしかできなかった。

そして——

「……行こう。」

私はそう言って、そっとパイロを背負う。

彼の体は小さく、だけど、この背中には計り知れない悲しみが乗っていた。

「……あ……ヒツキ……」

パイロが、不意に私の服をぎゅっと握った。

「……怪我、してるの……?血の…匂いが…、」

彼の手が、私の血に濡れた服を探るように撫でる。

「大丈夫だよ。」

私は平静を装いながら、再び走り出した。

(洞窟は近すぎるから、きっとすぐに見つかる)

(できるだけ遠くへ逃げなきゃ……!)

私は全身に広がる疲労感や痛みを無視して、全力で森の奥へと駆け抜けた。
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