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月の祈り

第1章 目覚め


◆託された命

「…息子を頼む」

そう言って、パイロの両親は静かに大男の前に立った。

私は驚いて顔を上げる。

その横で、パイロの母親が優しく微笑みながら言う。

「パイロと友達になってくれてありがとう。」

「えっ……?」

混乱する私の横で、パイロも不安そうに顔を上げる。

「お父さん、お母さん……?」

「ダメです! い、一緒に逃げましょう!」

(勝ち目なんかない…!)

私は必死に彼らを制そうとしたが——

「家族ごっこかあ?」

大男の低い声が響いた。

その声音には、どこか嘲るような色が含まれている。

「感動の別れってやつか? いいねぇ、こういうのは燃えるぜぇ!」

私はゾクリと背筋が凍るのを感じた。

「……これでも、武術の心得くらいあるんだ。」

パイロの父親が、ゆっくりと拳を握りしめる。

「そう簡単にはやられんさ。」

その横で、パイロの母親が静かに息を吐いた。

「パイロ、いきなさい。」

「え……?」

パイロは戸惑い、手を伸ばすが——

私は決意を固め、彼の腕を引いた。

「…パイロ、行くよ!」

「え、ちょっと、待って! お母さん!? お父さん!?」

私は彼を背負い、あずきを肩に乗せ、身を低くする。

「ヒツキ! だめだよ! お母さん! お父さん……!!」

パイロの叫びを無視して、私は振り返らずに走り出した。

背後から、風を切る音と怒声が響く。

「うぉぉぉおおお!!!」

ゾクリとした恐怖が背筋を駆け上がる。

(パイロの両親は……)

考えたくなくても、その結末はあまりにも明白だった。

でも、今は走るしかない。

私は必死に足を動かし、暗闇の中を駆け抜ける。

——その時、何かの視線を感じた。

(……見られてる!?)

まるで獣に睨まれているような、冷たい感覚が全身を貫く。

後ろを振り返ることなく、私は目の前にある茂みへと飛び込んだ。

そこに、人一人がやっと隠れられるような小さな空間を見つける。

「パイロ、ここに隠れてて!」

「えっ……?」

涙を拭う、パイロは困惑したように顔を上げる。

「どうしたの、ヒツキ ...?」

彼の手が私の腕を探るように動く。

「絶対に動かないで。私が戻るまで。あずきといて。」

私は震える手でパイロとあずきを押し込み、別方向へ走り出した。

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