第1章 目覚め
私がこの村に来てから数週間が経った。
その晩、私はいつも通り眠りにつこうとしていた。
だが、あずきが何かに反応しており、隅で毛を逆立て、低い声で唸っている。
「どうしたの?」
私は眠気をこらえて、声をかけた。
いつもなら寝ている時間に、こんなふうに威嚇することは珍しい。
「フーッ!!」
すると、あずきは私の呼びかけには反応せず、突然部屋を飛び出すと、洞窟の外へと向かって走り出した。
「あずき!」
驚きながらも、私は急いで立ち上がり外に出た。
外はいつもと同じように、静かな夜空が広がっていた。しかし、何かが違う。
森の中はいつもよりも静まり返り、風の音さえも聞こえない。
遠くから時折、微かな音が聞こえるだけだった。
私は嫌な予感が胸を締め付け、あずきを抱きかかえながら村の方に向かって走り出した。
足音が響く中、心臓の鼓動がどんどん速くなる。
走る途中、突然『ドォォォオオオン!!!』という音が森全体に響き渡り、その衝撃が足元まで伝わってきた。
「これは……!」
(間違いなく村の方から聞こえた…!)
「―っ、パイロ!」
心配でたまらなくなった私は、さらにスピードを上げて村に向かって走り続けた。
胸の中で不安が膨らんでいく。
村に着いた瞬間、目の前に広がった光景に私は思わず足を止めた。
そこには、血の海が広がり、倒れた村人たちが無惨に横たわっていた。
家々の扉は引き裂かれ、壁にこびりついた血痕が惨劇を物語っていた。まるで、誰かが一気に村を飲み込んだかのような、息を呑むほどの破壊だった。
家の中からは、もがくような声や呻き声が聞こえてくる。
足元に目を向けると、倒れた人々の中にはまだ動いている者もいて、必死に息をしている者もいたが、もう手遅れのようだった。まるで空気が冷たく凍りついたように、死と絶望が村を覆っていた。
「パイロ……!」
私は必死に周囲を見渡しながら、パイロを探し始めた。何か悪い予感がして、全身に冷たい汗が流れる。
息を呑みながら私は駆け寄り、パイロを探す。目の前にあった家が焼け落ちており、足元にひしめく死体の中に埋もれるように、パイロの姿は見当たらない。
恐ろしい光景の中で、私はパイロの名前を呼び続ける。
彼が無事でいてくれることを、ただそれだけを祈りながら——。