第1章 目覚め
◆不穏な影
夜の森は静寂に包まれていた。月明かりが木々の隙間から差し込み、かすかな光が地面に揺れ動く。
その静けさを破るように、森の奥で複数の影が蠢いていた。
「……ここか?」
低く抑えた声が、闇の中に響く。
「間違いねぇ。ここから先に、奴らの村がある。」
がっしりとした体格の男が小さな紙片を手にして言った。それは地図のようだったが、何かのメモが書き込まれているらしい。
「ねえ、本当にやるの?」
別の影が、ゆったりとした口調で問いかけた。
「今さら何言ってんだよ。容易い事だろ?」
細身の男が肩をすくめながら、ナイフをくるくると回す。
「たしかに、珍しいモンらしいけどよ。こいつら、ただの村人なんだろ?」
「ただの村人……ねぇ。」
最も大柄な影が、ゆっくりと首をかしげる。
「連中の“緋の眼”は高値がつく。躊躇する理由があるか?」
「ま、それもそうだな。」
誰かがくつくつと笑う。その笑い声が、闇の中に不気味に響いた。
「な、もういいか? 団長。」
「…やれ。」
その声が響いた瞬間、森の静けさを破るように、大柄な男が一歩踏み出し、拳を地面に叩きつけた。