第1章 目覚め
私はパイロを地面にゆっくりと座らせた。
「お腹すいてると思って、持ってきたんだ。一緒に食べよう!」
私は驚きながらも嬉しくなって、彼の手元を見る。
「ありがとう、パイロ!」
カゴの蓋を開けると、中には色とりどりの果物がたくさん入っていた。甘い香りがふわっと広がり、思わず口元が綻ぶ。
「わあ、すごい…!ありがとう!」
「いただきます。」
一緒に果物を食べ始める。
あずきがまっすぐこちらに向かってきて、私とパイロの間にちょこんと座る。
「ふふ、あずきもお腹すいたの?」
私は果物の小さな欠片をあずきの前に差し出した。あずきは鼻をひくひくと動かした後、満足そうに食べ始める。
そんな様子にパイロが首を傾げる。
「…仔猫がいるの?」
「あ、そうなの!朝なぜか私の近くにいたから、あずきって名前をつけたの!」
私が嬉しそうに言うと、パイロはふっと微笑んだ。
「可愛い名前だね。」
あずきはパイロの手の匂いを嗅いだ後、すりすりと頬を寄せる。
「ふふ、あずきもパイロのこと好きみたい。」
パイロは少しくすぐったそうにしながらも、優しくあずきを撫でた。
お腹が満たされると、私たちは地面にごろんと横になった。空を見上げると、雲がゆっくりと流れている。
「ねえ、パイロ。私みたいに耳やしっぽが生えてる人っているのかな?」
私はふと気になって尋ねた。
パイロは少し考え込むようにしてから、首を横に振る。
「僕は聞いたことないよ。」
「そっか…」
私は自分の耳にそっと触れる。
「私は、どこから来たんだろう…」
小さく呟くと、パイロは優しく微笑んだ。
「いつか、故郷が見つかるといいね。」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
そんな時間もあっという間に過ぎ、夕方になると、
「そろそろ帰らないと。」
「じゃあ、村の近くまで送るよ。」
私はパイロの手を取って、ゆっくりと歩き出す。
彼は「ありがとう」と言って、安心したように私の手を握り返した。
森を抜け、村の近くにたどり着くと、私は少し離れた場所で立ち止まった。
「ご飯ありがとう!」
私は手を振り、パイロの後ろ姿を見送った。
自分の故郷がどこにあるのかも、なぜこの力を持っているのかもわからない。でも、今は、少しだけ前に進めた気がした。