第2章 夏休み
「おばーちゃん、このサッカーボールのもなか2個ちょうだい。あと、このクリーム入りのどら焼きも」
「ありがとうねぇ。このもなか、柚のお兄ちゃんが作ったのよ。あの子もサッカーが好きでねぇ。
ほら、柊!柚のお友達があんたのもなか買ってくれたよ」
ばーちゃん、うるせぇな、と兄の柊が裏から出てきた。
蜂楽はハニーレモンの瞳を細めてニカっと笑って、こんにちはと挨拶した。
柊は蜂楽の足元のサッカーボールをじっと見る。
「君、サッカー部?」
「そう!委員長の兄ちゃんは?」
「おれは高校までやってたよ。今もたまにフットサルに行ってるけど」
「へぇ!じゃあ一緒にやろうよ!」
蜂楽と誘いに乗った柊、見物の柚は近くの広場まで3人で歩く。柊は小三から高校までサッカーをしていた。身長185cmを活かしてポジションはキーパー。今でも海外リーグの試合や、特に日本代表の試合は欠かさず見ているサッカーバカだ。
いつの間に意気投合したのか、蜂楽と柊はノエル・ノアがどうとか、先週のクラシコのスーパーゴール見た?とか柚にはわからないサッカーの話をしている。
広場はサッカーのフィールドの半分ほどの広さ。暑さのせいか誰もいない。
蜂楽は体を伸ばしてストレッチすると、右足にサッカーボールを乗せてぽんぽんとリフティングを始めた。ボールが体にくっついて離れない、まるで手品だ。左足の甲、つま先へ渡して最後はぽーんと高く上げたボールを背中でキャッチする。
「蜂楽くん、すっごい上手じゃん!」
「にゃはは♪委員長もやってみる?」
柚はこくこく頷く。楽しそう。
「お前、おれが誘ってもやらなかったくせに」
「お兄ちゃん、リフティングなんてやってた?キーパーなのに。っと、やだ、難しい」
何度チャレンジしてもボールはコロコロ転がっていってしまう。難しい。でも楽しい。
ボールを追いかける柚を見て、蜂楽はまたにゃははと笑った。